Sunday, August 28, 2005

8 Nights 9 Days in SERENA, Islamabad

明日、というか数時間後にチェックアウトする。
8月20日からイスラマバードに8泊したが、最初の何日間かはまだ頭の中から仕事が抜けなくて、全然休暇にならなかった。寝ようとしても、無数のスプレッド・シートやらデータベースの構造ばかりが頭の中をぐるぐる回っていて、なかなか眠れない。マイスリーもベンザリンもハルシオンも効かない。やっと寝たと思っても、夜中に3回くらいは目が覚める。あたかもずっと考え続けていたようにまたスプレッド・シートの同じページが頭の中で開いている。目が覚めている時は、何も仕事に手をつけないように意識しているが、ボーっとしてしまって、なかなか何にも集中できない。

やっと普通の意識に戻ったと思ったのは、26日だった。結局、仕事から抜けて普通の状態に戻るには1週間必要だいう結論に至った。ニコチンとかカフェインとかそんなものか、ある種の麻薬のようなものが仕事によって脳内に発生しているのではないかと思う。

こういう状態で家族に会うのはとてもしんどいし、向こうもえらい迷惑だと思うので、今後はカブールを出て確実に1週間どこかで仕事麻薬を抜いてから家族に会おうと思った。イスラマバードに滞在していた家族も明日、日本に帰り、僕はカブールに帰る。

イスラマバード滞在中泊まっていたセレナホテルは、世界中に展開するインターナショナルホテルチェーンとちがって、デザインに無駄が多く、その点で際立っている。12年前、クエッタのセレナホテルに3ヶ月滞在したが、そこもあくまでもクオリティは最高レベルに維持しようとしながら、まったく奇想天外な建築物であった。

イスラマバードのセレナは3年前にオープンしたばかりだが、哲学に変更はないようだ。機能的だが無味乾燥なホテルが世界制覇を進める中で、こういうホテルは是非生き残って欲しい。

下の写真(↓)朝だか昼だか分からない頃に、僕はぼんやりとこのカフェでダブル・エスプレッソを飲んで正気に返ろうと努力していた。ガラスの壁の向こうに見える緑の空間は無駄と贅沢と救い。



カフェから出て一段下にある道路に続くセレナの敷地を撮った写真(↓)。特に意味はないが、とりあえず芝生にしてみた、みたいなところがセレナらしい。


パキスタンに行くことがあれば、セレナホテルはお勧めです。インターネットで予約可。

Saturday, August 27, 2005

どこで何をまちがえたのか?

信じない人も多いと思うけど、パキスタンの本屋に行くと、インテリとか知識人とか日本では死語になってしまった概念が突如よみがえってくる。といっても、そんなカテゴリーの人にわんさと出会うなんてわけではない。

ただパキスタンでは本屋さんの店員が本のことを知っているというだけのことなんだけど、これって懐かしくないですか?日本最大の書店というキャッチフレーズのお店なんかで、こんな本は誰でも知っているだろうと思って店員にきいても全然なんの興味も示されず、いきなりコンピュータに向かって、あげくのはてに在庫がありませんの一言で終わることに10年くらい前はかなり憤慨していた。もう僕は日本では本屋で本を買わなくなったので、そんなことさえ忘れていたけど、かつてそういう苦しみのような哀しみのようなものがあって、それよりもっと前は本屋の店員との会話というものもあったんですね。

今日、3年ぶりくらいで、イスラマバードの本屋さんに行ったのだけど、まずお店に入ってすぐのところに、ずらっともうこれは全部読みたいでしょうって本が並んでいた。アフガニスタン関係の本がものすごく増えている。19世紀に大英帝国植民地行政官が書き散らかした紀行文も装いを新たにして出ている。それにキーワードで言えば、イラク、アラブ、イラク戦争、テロ、イスラム、アメリカ、アルカイダなどに関連する本がずらずらずらずら。著者の名前から察するに、イスラム系の人の作品から西洋人の作品まで幅広く集めている。東アジア人の名前はまったく見なかった。

7、8年前、アフガニスタン関係の本を求めて、パキスタンのいろんな本屋に行ったもんだが、その頃は宝探しみたいなものだった。店員の助けがなければ、その重要性、というか存在さえ、分からなかった本も多かったものだ。そんなことを思い出しながら、僕は予定を変更して、一冊ずつ手にとって吟味しはじめた。

予定というのは、今日はただ一冊の本を-あるとはほとんど期待せずに-探しに来ただけだったのだ。Bernard Lewis の"What Went Wrong ?"が欲しかったのだ。世界的なベストセラーだから、日本語の翻訳も出ているかもしれない。いや、出ていなかったら日本はどうかしてる。今さらどうかしてるもないんだけど。

9・11以後に書かれたイスラムとかアフガン関連の本はいいかげんなものが少なくないという印象をもっている人はたぶん僕一人じゃないと思う。"What Went Wrong ?"は9・11の前に書かれた「9・11もの」と言ってよいかもしれない。9・11が起きた時は、最後の校正中だったそうだ。出版社的には、急遽1章追加でもして「9・11もの」として売り出したかったんじゃないだろうか。でも、結果的にはそんなことする必要はまったくなかったのだ。この本はすでにこの分野で古典になる道を歩み始めている。

正確にいうと、Bernard Lewis 教授(プリンストン大学)は、校正中に9・11が起きて、少し、ほんの少しだけ書き加えている。本文が始まる前の最初の1ページにたった7行の前書きを付け足したのだ。それがまたカッコよすぎる。うまく日本語に訳せないので、英語のまま抜き出してみる。

"This book was already in page proof when the terrorist attacks in New York and Washington took place on September 11, 2001. It does not therefore deal with them, nor with their immediate causes and after-effects. It is however related to these attacks, examining not what happened and what followed, but what went before - the longer sequence and larger pattern of events, ideas, and attitudes that preceded and in some measure produced them."

キャーっ!

レジに座っている無愛想なおっさんに"What Went Wrong" Bernard Lewis と書いた紙切れを渡すと、店の小僧に一言指令を出して、11秒後くらいに、この本はあっさり出てきた。パキスタンでは何をやっても時間がかかって僕はイライラしてしまうのだが、この素早さは信じられない。コンピュータに入ってるデータベースなんて勝負にならないな。

そして、僕は衝動買いに専念することができたのでした。

まず最初に選んだ一冊は、"When Baghdad Ruled the Muslim World - The Rise and Fall of Islam Greatest Dynasty", Hugh Kenndey. ヨルダンでしばらく生活して「イラクはすごい国だったんだな」という印象がこびりついているんだけど、その「すごい国」全盛期について知りたいとずっと思っていたので、これはなかなかぴったしの本ではないかと思って選ばないわけにはいかなかった。

次は、"Traditions & Encounters - A Global Perspective On the Past", Jerry H. Bentley & Herbert F. Ziegler. これはタイトルを見て、もう買わないわけにはいかなくなった。「伝統と遭遇」ってか?これはもうこの10年ほど僕の日常でしょ。アメリカの大学の教科書らしく、大判でやたらページ数が多く(1067ページ)、そして重い。5キロくらいはあるだろう。世界史の教科書みたいなものだけど、異種の伝統の遭遇という視点で一貫して書いているようだ。

他にもたくさん欲しいのがあったが、あと一冊はまったく趣味ではない本を選んで終了することにした。"Searching for Peace - The Road to Transcend", Johan Galtung et al. 日本でもファンが多い平和学の大家、ヨハン・ガルトゥングさんとその一派の本だ。机上の空論を徹底的に追求する方が小学生の遠足日記のような中途半端なフィールドワークよりましだという程度に僕はガルトゥングさんのような人の仕事を尊重をしている。あっと驚くような発見も感動も期待していないけど、最近どういうことをしているのかささっと知るには良さそうなコンパクトな本なので買うことにした。

後は、Stress Relief の本を二冊とDepression 関係の本を一冊買った。結局、この三冊は妻にあげてしまった。明日また別のを買おう。

Saturday, August 06, 2005

An ugly megalopolis

"faragile days" の書評を発見した。書評の見出しが、An ugly megalopolis

表紙の写真(↓)。


オー・ヘンリーの短編のような驚きの結末はなくて、モーパッサンの作品のように、環境に順応している登場人物が描かれている、とかなんとか書いてある。あとはいくつかの短編の要約。やる気あんのかって思わせる、へたな書評だった。

Tew Bunnag

というのがタイの作家の名前だった。本のタイトルは、
"fragile days - tales from bangkok".
全部小文字。

表紙は、緑の葉っぱが茶色く枯れた葉っぱのバックの上にのっていて、さらにその上にいかにもfragile なタイトル文字がかぶさっている。美しいです。
表紙の一番下にたぶん日本なら帯にのりそうな文句が直接印刷されている。

"Uneasy snapshots of everyday life in Bangkok...
where traditional values hang in a delicate balance."

ちゃんと内容を味わっている編集者がいるんですね(いつか日本の本の帯のデタラメな文句がいかに本の内容を誤解させているか、本の価値を破壊しているかみたいなことを書いたような気がするがどこに書いたのかな)。

この文句を読むと、タイの夏目漱石的存在なのかなとも思う。「夏目漱石+アーウィン・ショー+村上春樹」という印象は、日本が近代化にかけた百年を一気に駆け抜けざるを得ないタイの現状をかなり反映しているのかもしれないと思ったりする。

ところで、この本はオリジナルではないらしい。
「Quintessential Asia」という名のシリーズの一冊で、アジアの最もすぐれた文学的「声」のショーケースたらんとしているということです。シンガポールのSNPインターナショナルという出版社がアジア各国から新人とかベテラン作家とか関係なく優れていると思う作品を集めてシリーズものとして出版している。ありとあらゆるものの中身と評価の間になんの関係もなくなった日本から見ると、このシリーズ自体興味深い。このシリーズは"promises to inform, provoke and delight"なんて書いてあるけど、確かに"fragile days"に関するかぎり、それはウソではなかった。他の本も手に入れたい。

ところで、Tewさんというのは、あるとても有名な貴族の息子さんらしい。タイ史に関して完全な無知なのでまちがった解釈をしている可能性があるが、裏表紙に書いてあることの字面だけ追ってみると、19世紀のチュラロンコン王の時代に絶大な権力を持っていたサイアム(シャム)の摂政である、スリウォン・ブナンというタイ史ではとても重要な人の直系の子孫なのだそうだ。

Tewさんは1947年生まれで、ケンブリッジ大学(キングス・カレッジ)で中国語と経済学を勉強した。1968年に卒業して、1975年まであちこち放浪の旅に出ていたようだ。優雅だねえ。その間にケンブリッジのはずれで瞑想と太極拳とヨガと西洋ものを混ぜ合わせて、精神セラピー・センターなるものを作ったりしてる。

1985年からはギリシャとスペインに住み始めた。二国間を行ったり来たりってことだろうか。ずっと外国にいる間もTewさんは常にタイで起こっていることは、ちゃんと注視していて、浦島太郎状態にはならなかったそうだ。

2000年にようやくバンコクに戻ってきて、バンコク港地域にあるエイズ患者のホスピスで彼らの世話をする仕事を手伝い始めた。(バンコクって海に面していたのか?)

これまでに本を二冊出していて、その他にも瞑想とか太極拳に関する記事をたくさん書いているらしい。

最後に、『壊れやすい日々』に収録されている短編のタイトルだけ、ほぼ直訳して書いておこう。
「幽霊の話」
「忘れるべき一夜」
「ジード、弟を探す」
「花売りの少女」
「ギャンブラー」
「失踪」
「女の復讐」
「アイ・ジェイの後悔」
「愛がタミーを癒す」
「エピローグ:バンコクの街の歌」

Tewさん、会ってみたい人だな。

Monday, August 01, 2005

Fragile Days

を日本語に訳すとすると、
「はかない日々」かな。
いや、「もろい日々」か。
思い切って、「日々虚弱」か。

あっさりと、「壊れやすい日々」がいいような気もする。

なんとなく、バンコクのトランジット中、予定通り出発が2時間半送れて、無思慮に買った本の一冊のタイトルが「fragile days」だった。タイの作家の短編集なのだが、タイの作家は、というか東南アジアの作家を誰一人として知らないので、この作家がどういうポジションの人かは全然分からない。

買っただけで、しばらくほったらかしにしていたけど、あまりに暑くて、からだがだるくてなかなか眠れないので、パラパラとめくり始めると、はまった。

ものすごく大きな物語がどこかにひそんでるわけではないし、文章も淡々としていて、何か来るのかな、何か来るのかなと思って読み進めていると、ぱたっと終わる。

シンプルで正しい英語で、まるで日本の大学受験生の英作文のようにも見える。スラングなんてほとんど出てこない。タイ語がちょっと入っていたりするけど。

淡々と語られるバンコクのシティ・ライフには、今どきの日本人に驚きを与えるようなものはないかもしれないだけど、読み終わるともう一度あそこ、本の中に戻ってみたいと思わせるようなものがある。ひょっとして、この作家はチョーーーーーーーー有名な人なのだろうか。バンコクのアーウィン・ショーとか呼ばれていたりするのだろうか。「I like routine.」で始まる一編なんかは村上春樹ぽいかもしれない。

と書いて、ひょっとしたら、とっくに日本でも翻訳が出ていて、それなりにファンがいたりする作家なのかもしれないと思い始めた。

この翻訳は難しいかもしれない。優秀な中高生なら訳せるだろう。でも、よほど注意しないと、何かの要約かガイドブックのようになってしまいかねないと思う。この雰囲気をダサくなく、維持する日本語は難しそう。

ここまで書いて、作家の名前が思い出せない。今、手元に本がない。忘れなかったら、書き足します。