Saturday, August 27, 2005

どこで何をまちがえたのか?

信じない人も多いと思うけど、パキスタンの本屋に行くと、インテリとか知識人とか日本では死語になってしまった概念が突如よみがえってくる。といっても、そんなカテゴリーの人にわんさと出会うなんてわけではない。

ただパキスタンでは本屋さんの店員が本のことを知っているというだけのことなんだけど、これって懐かしくないですか?日本最大の書店というキャッチフレーズのお店なんかで、こんな本は誰でも知っているだろうと思って店員にきいても全然なんの興味も示されず、いきなりコンピュータに向かって、あげくのはてに在庫がありませんの一言で終わることに10年くらい前はかなり憤慨していた。もう僕は日本では本屋で本を買わなくなったので、そんなことさえ忘れていたけど、かつてそういう苦しみのような哀しみのようなものがあって、それよりもっと前は本屋の店員との会話というものもあったんですね。

今日、3年ぶりくらいで、イスラマバードの本屋さんに行ったのだけど、まずお店に入ってすぐのところに、ずらっともうこれは全部読みたいでしょうって本が並んでいた。アフガニスタン関係の本がものすごく増えている。19世紀に大英帝国植民地行政官が書き散らかした紀行文も装いを新たにして出ている。それにキーワードで言えば、イラク、アラブ、イラク戦争、テロ、イスラム、アメリカ、アルカイダなどに関連する本がずらずらずらずら。著者の名前から察するに、イスラム系の人の作品から西洋人の作品まで幅広く集めている。東アジア人の名前はまったく見なかった。

7、8年前、アフガニスタン関係の本を求めて、パキスタンのいろんな本屋に行ったもんだが、その頃は宝探しみたいなものだった。店員の助けがなければ、その重要性、というか存在さえ、分からなかった本も多かったものだ。そんなことを思い出しながら、僕は予定を変更して、一冊ずつ手にとって吟味しはじめた。

予定というのは、今日はただ一冊の本を-あるとはほとんど期待せずに-探しに来ただけだったのだ。Bernard Lewis の"What Went Wrong ?"が欲しかったのだ。世界的なベストセラーだから、日本語の翻訳も出ているかもしれない。いや、出ていなかったら日本はどうかしてる。今さらどうかしてるもないんだけど。

9・11以後に書かれたイスラムとかアフガン関連の本はいいかげんなものが少なくないという印象をもっている人はたぶん僕一人じゃないと思う。"What Went Wrong ?"は9・11の前に書かれた「9・11もの」と言ってよいかもしれない。9・11が起きた時は、最後の校正中だったそうだ。出版社的には、急遽1章追加でもして「9・11もの」として売り出したかったんじゃないだろうか。でも、結果的にはそんなことする必要はまったくなかったのだ。この本はすでにこの分野で古典になる道を歩み始めている。

正確にいうと、Bernard Lewis 教授(プリンストン大学)は、校正中に9・11が起きて、少し、ほんの少しだけ書き加えている。本文が始まる前の最初の1ページにたった7行の前書きを付け足したのだ。それがまたカッコよすぎる。うまく日本語に訳せないので、英語のまま抜き出してみる。

"This book was already in page proof when the terrorist attacks in New York and Washington took place on September 11, 2001. It does not therefore deal with them, nor with their immediate causes and after-effects. It is however related to these attacks, examining not what happened and what followed, but what went before - the longer sequence and larger pattern of events, ideas, and attitudes that preceded and in some measure produced them."

キャーっ!

レジに座っている無愛想なおっさんに"What Went Wrong" Bernard Lewis と書いた紙切れを渡すと、店の小僧に一言指令を出して、11秒後くらいに、この本はあっさり出てきた。パキスタンでは何をやっても時間がかかって僕はイライラしてしまうのだが、この素早さは信じられない。コンピュータに入ってるデータベースなんて勝負にならないな。

そして、僕は衝動買いに専念することができたのでした。

まず最初に選んだ一冊は、"When Baghdad Ruled the Muslim World - The Rise and Fall of Islam Greatest Dynasty", Hugh Kenndey. ヨルダンでしばらく生活して「イラクはすごい国だったんだな」という印象がこびりついているんだけど、その「すごい国」全盛期について知りたいとずっと思っていたので、これはなかなかぴったしの本ではないかと思って選ばないわけにはいかなかった。

次は、"Traditions & Encounters - A Global Perspective On the Past", Jerry H. Bentley & Herbert F. Ziegler. これはタイトルを見て、もう買わないわけにはいかなくなった。「伝統と遭遇」ってか?これはもうこの10年ほど僕の日常でしょ。アメリカの大学の教科書らしく、大判でやたらページ数が多く(1067ページ)、そして重い。5キロくらいはあるだろう。世界史の教科書みたいなものだけど、異種の伝統の遭遇という視点で一貫して書いているようだ。

他にもたくさん欲しいのがあったが、あと一冊はまったく趣味ではない本を選んで終了することにした。"Searching for Peace - The Road to Transcend", Johan Galtung et al. 日本でもファンが多い平和学の大家、ヨハン・ガルトゥングさんとその一派の本だ。机上の空論を徹底的に追求する方が小学生の遠足日記のような中途半端なフィールドワークよりましだという程度に僕はガルトゥングさんのような人の仕事を尊重をしている。あっと驚くような発見も感動も期待していないけど、最近どういうことをしているのかささっと知るには良さそうなコンパクトな本なので買うことにした。

後は、Stress Relief の本を二冊とDepression 関係の本を一冊買った。結局、この三冊は妻にあげてしまった。明日また別のを買おう。

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