Saturday, July 19, 2008

混沌というか・・・

今日、イスラマバードからコペンハーゲンに帰ってきた。
イスラマバード空港でチェックインしようとすると、パスポートのコピーを出せと言う。ホンモノのパスポートを見せているのに、おかしなことを言う奴だと思って「そんなもの必要だなんてきいたことない」と言うと、チェックイン・カウンターの男は「20年間そういうシステムが続いているのだ」と真面目な顔して言う。思わず笑ってしまった。「その20年間にこの空港に100回はチェックインしているが、パスポートのコピーなんて一度も出せと言われたことない」と一応言ったが、どうも笑えてきて、本気で言い返す気力が出てこない。しかし、向こうは他の乗客のパスポートのコピーの束を出してきて、勝ち誇ったような顔をしている。本気で20年話を押し通そうとしているらしい。

実にバカバカしいのだが、実にパキスタン的でその束を見てまた笑ってしまった。そして、なんと、いつの間にかちゃんとパスポートコピー専門コーナーみたいなものがチェックイン・ロビーに出来ているではないか。そこに言ってコピーをしてこいと言う。20年話のプライドを傷つけても何も得るものはない。そっとしておくことにして、さっさとコピーをとってくることにした。

こういう第三世界の空港に行ったことがないと想像し難いと思うが、だいたい何も問題がなくても空港そのものが混沌の極地なので、プライオリティは、あるべき世界像(あるいは真でも善でも美でもよいが)を求めることではなく、モノゴトを進めるということに集中するべきなのだ。こんなところで目くじらを立てている人はだいたい第二、第三のもっと本格的なやっかいごとに巻き込まれる。

おそらく最近パスポートコピーという専門職を手にしたばかりであろう若いパキスタン人の男は誇りに満ちた顔をしていた。それもそのはずだ。値段をきくと35ルピーだという。1ドルが70ルピーくらいなので、ほとんど判読不能なコピーが1枚50円以上することになる。パキスタンでは法外な値段だ。特殊なスキルが要求される職として認知せざるを得ない。

混沌も使い方しだいでは役に立つ。イスラマバード滞在中のある日ふと思い立って、いつも日本の医者にもらう睡眠薬が手に入らないだろうかと考え始めた。睡眠薬でも2週間分しか出してくれないものと、2ヶ月分だったか3か月分だったか忘れたが、一回でかなりたくさん出してくれるものがある。日本の医者に行くたびに両方を限度まで出してもらうのだが、とっくに全部なくなっていた。それからはNYに行くたびに32錠入りの市販のもの(Unisom とかそれの類似品)を5箱ずつくらい買っていたが、これがあんまり効かない。こういうのは抗ヒスタミン剤の眠くなる効果を利用しているらしい。風邪薬みたいなものだ。

日本でもらっていた薬の商品名を外国で言っても分からないだろうから、外国での商品名をまず発見しないといけない。ネットでいろいろ調べてみると、日本でかなりたくさん出してくれる睡眠薬の成分はどうやら Zopiclone とか Zolpidem というものらしいということが分かった。各国、各地域で異なる、それらを含むいろんな商品名(Amoban, Ambien,Hypnogen, Myslee, Nimadorm, Nitrest, Sanval, Stilnoct, Stilnox, Zoldem, Zolfresh, Zolt)も出てきた。

これらの知識で武装して(ノートの切れ端にメモしただけですけど)、薬局に行ってみた。日本の薬局はどちらかというと静かなイメージがあるが、パキスタンの薬局はなぜかわいわいとにぎわってる。みんな薬が好きらしい。他の客をかきわけてやっとカウンターにいる一人のニーちゃんにいろいろと薬の名前を言ってみるが、なさそうな雰囲気。ちょっと待て、と言って、カウンター係りの元締めみたいなオヤジにききに言った。

ひょっとしてとんでもない薬の名前を口に出したのではないだろうか。この場で逮捕されたりしないだろうか、などと考えて少し動揺しそうになる。このニーちゃんを一人で行かすのは危険だと思い、元締めの近辺までついていった。

すると、この元締めはこんなことも分からないのかとでも言いそうな形相で若いニーちゃんをジロッと見返して、カウンターの中の壁にぎっしり張り付いているような数々の薬の一つを顎だけで指示した。よくそれだけで特定できるものだ。若いニーちゃんをさっそくそれを取って、その箱を見せてくれる。薬の名前は Xolnox と書いてある。こんな名前はなかった。成分を見ると、Zelpidem Hemitartrate と書いてあるではないか。どうやら類似品には違いない。

しかし、問題は医者の処方箋がないことだ。うん、これはなかなか良さそうだと言う顔をして、一ついくら?ときいた。一箱に20錠入って、190ルピーだという。300円くらいだ。やすっ!さて、何錠必要というか。一箱だとすぐになくなってしまう。三ヶ月分くらいは欲しいところだ。しかし、そんなに売ってくれるだろうか。おどおどしてると怪しまれるので、思い切って5箱と言ってみた。950ルピーと即座に返答された。あれっ?何にもきかないのかな、と思っているうちにさっさと5箱を紙袋に入れて手渡してくれた。あっけない。そんなんでいいのか。薬害の心配とか考えないのか、ひどいものだ、と思ったが、いまさらどうしようもない。いや、内心うきうきしてスキップして帰りそうになった。

これに味をしめて、出発の前日また今度は前行った薬局の隣の薬局に行って、同じものを5箱頼んでみたが、やはりあっさりとくれた。というわけで全部で200錠も買って帰ってきた。もっと買おうかと思ったが、調子にのって飲みすぎるといけないのでやめた。

その後、Vanguard Book Store に行って、"Murder in Samarkand - A British Ambassador's Controversial Defiance of Tyranny in the War on Terror", Craig Murray を探したがなかった。ずっと以前に書評を読んでいつか読もうと思っていた"Osama: The Making of a Terrorist", Jonathan Randal があったので買った。コペンハーゲンまでの機内で読み始めると、これがおもしろくてやめられない。オサマ・ビン・ラディンについて調べたのはもう10年も前のことだ。その当時に調べたようなこと-「カブール・ノート」や「イスラム・コラム」に書いた-がこの本でも出てくる。オサマという名前の商店の名前や子どもの名前が増えた当時の様子や、オサマをアフガニスタンから追い出すか、追い出さないか、タリバン内部の葛藤。おそろしく月日が経つのが速い・・・。

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