Wednesday, September 07, 2005

歯が痛いと、すべてのことに抵抗する気がなくなる、と気がついて、
日常は気がつかないまま、なんとこまごまといろんなことに戦っているんだろうかってことに、気がつく。人生は戦いだなんて思ってるわけでないし、そんなこと言う気も毛頭ないんだけど、すべてなすがままではなかったんだな。

9月4日にカブールからイスラマバードへ行く予定だったが、飛行機の席が取れてなくて(なんという悪いタイミングで最悪のことが起こるんだ?)、9月5日にイスラマバードに着いた。

フィリッポに紹介してもらった歯医者は予想通り、二週間先まで予約がぎっちり入っているとのことだったが、緊急だということで6日に見てもらった。

歯医者に行って感動したのは人生初めてだ。ジュネ・マリクという名前のこの歯医者さんの僕の歯の状況説明はほんとによく分かった。昔々治した歯の処置から問題が発生していて、それが連鎖的に異なる問題の原因になっていたのだが、複雑な状況と難しい対策について非常に理路整然と話してくれた。そして、薬の種類と目的と期待される効果についてもよく分かる説明をしてくれるので、早く薬が飲みたくなってしまった。

そして、最後にestimate cost というのもくれた。仕事でしょっちゅう使う言葉がこんなところに出てくるとは。パキスタン的にいうとかなり高額かもしれないが、日本的には大した額ではなかった。保険制度の整っていない国では、ともかく患者がお金の用意をする必要があるわけだから、これは親切なシステムだと思う。

受付の人にいつ払えばいいのかと訊けば、きょとんとしている。知らないのだ。全部終わってからでいいとか言って、お金を受け取ろうとしない。パキスタンでお金を受けとらない???

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↑歯医者とは思えない素敵な建物だった。インテリアも歯医者臭くなく、センスが良かった。静かに流れる女性ヴォーカルの歌が笑顔の可愛い受付の女の子に似合っていた。何しに行ったんや?

* * *

カブールで国連クリニックの歯医者に駆け込んだのは9月1日の朝だった。その時はもうこの世の終わりかと思ったが、今はまだ世界は滅亡しないような気がしてきた。

それにしても、あの国連の歯医者はなんなんだろう?いろんな書類にID番号やらなんやら記入して、それから30分待った後、やっとみてもらったのだが、どこが痛いと訊きながら、あちこちの歯を鉄棒でコンコンと叩いてきくことが15秒くらい。そして、素早くこれは抜いた方がいいという診断に至った。はあっ?まだ何にも見てないじゃないかと思ったが、僕は口を開けたままで何も言えない。

そして、今日は痛そうだからまず痛みを除去しようと言って、その日の抜歯はなく、薬の処方箋を書き始めた。そして、次の質問が「君は糖尿病はあるか?」だった。僕はまた「はあっ?」という顔をしていたと思う。この歯医者は、blood にsugar が多いか?と訊きなおす。糖尿病という診断は今まで知っている限り一度もない。今年の4月に健康診断した時もそういう傾向はなかったと答えたが、この医者は念のため血液検査をしようと言って、それも処方箋に書き込んだ。

まず歯と糖尿病に関係があるとは知らなかったが(あんのか?)、ちゃんと歯を見ていない時点でもう僕は一刻も早くイスラマバードへ行くことを考えていたのであった。

この国連歯医者に渡された紙を持って、血液検査担当者の部屋を探し回ってやっと到達すると、生まれて一度も笑ったことのないような女が僕の手から無言で紙をひったくって、突如、僕がものすごい過失を犯しているような顔をこっちにむけて、お金を払ってから出直して来いという。どうやら、先払いシステムだということだ。それならそう言ってくれたらいいだけなのに、どうして、そんな態度かなあ?まったく国連そのものだ。

またお金を払う場所を探し回って(国連クリニックの中にはどこにも手順も何もかいてない)、結局そんな場所はないということが分かった。クリニック内の薬局に行って、薬のお金といっしょに払うことになっていたのだった。ああ、もうどうでもいい。血液検査なんかしてどうなる?と思ったが、何にも抵抗する気がなくなっていたので、とりあえずあの目を引きつらせた女のところへ領収書をもってもどった。

この女の注射はきっと痛いだろうなと思っていると、携帯電話に仕事の電話がかかってくる。ああ、もう考えたくない、と思うが、なんとか答えないとしょうがないし、返答はするもののさっぱり頭が働かない。ともかく今、手に注射が刺さっていて血を採られているところだから後で、と言ってようやく電話を切った。

それから9月6日まではほとんど記憶に残らない地獄の日々だった。ロキソニン、パナドール、ニューロフェン、イルプロフェンなど等、痛み止め関係を飲みまくってしのいだのだった。当然、こういう時に限って、津波のように仕事は押し寄せてくるし、「フォーサイト」の原稿締切は重なるし、マーフィーの法則はどこまでも貫徹している。(ちなみに次回のタイトルは「正義と安定のジレンマ」のようです。選挙のことを書いたつもりなんだけど)

とりあえずSerena は3泊予約していたが、最初の1泊をふいにしたし、イスラマバードには最低5泊しなければならないことが分かった頃にはもう予約でいっぱいで他の宿を探すはめになったが、ともかく痛みは激減したし、この先の処置(それ自体は全然良い話ではないんだけど)も見えてきたし、もうそんなことはどうでもよくなった。

土曜日にカブールに帰る。

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