Sunday, October 19, 2008

“ただの混乱”

米大統領選と恐慌寸前の世界経済のニュースでメディアはほとんど占領されてしまっているようだが、それでも、一般人の生活とは遠く離れたところで起きている出来事のような印象を受ける。それだから、大衆はダメなんだという意見もあるだろうが、その一方で、一般人の冷静な対応がパニック状況を未然に防いでいるという意見もあるだろう。

米大統領選は、民主党大統領候補のオバマが、フセインという名前を持つこと、黒人であること、若いということ、共和党大統領候補のマケインが、高齢であるということ、副大統領候補に若く中央政治の経験のない女性を指名したこと等など、話題を見ると、選挙というよりも、新商品のマーケティング技術やショービジネスのあらゆる専門知を結集した競争になっている。髪型や、スーツ、シャツ、ネクタイの組合せ、ちょっとラフな格好にしてみる場面、ボタンを二つはずすか三つはずすか、そでをまくりあげるかどうか、なにもかもが徹底的に計算されて選択されたのだろうというのがテレビ画面から見えてくるのも、関係ないがコッ恥ずかしい感じもする。

そう、そんな本来どうでもいいようなところに、我々の視線は見事に誘導されてしまっている。で、外交政策の違いは、どうなんだ?経済は?医療は?教育は?となると、いまいちピンと来ない。ちゃんと新聞を隅から隅まで読んでいる人には見えているのだろうが、そんな人が有権者のいったい何%いるだろうか。結局、心の底深くに潜んでいる偏見や、みもふたもない表面的な好感度だけで投票にいたるという有権者の数の方が圧倒的に多いだろう。

オバマ対マケインという構図は最後までしっくり来ない。賢い人がいろいろなことを言っているが、それをまとめると、ブッシュがめちゃくちゃにした8年間をどうするかというのが、この大統領選の本題ではないのだろうか。そうすると、オバマであろうとヒラリーであろうと、民主党には圧倒的に有利な条件の下で戦えるはずだった。オバマはそれを裏切らずにここまで善戦してきたとも言える。しかし、ここまでハンディキャップをもらっておきながら、この接戦というのは不気味でもある。状況的には圧倒的に有利でも圧勝に持ち込めない、そこが怖い。実際何が起こるかまだ分からないと思う。


* * * * * *

一方でアメリカで始まった金融破綻が世界中に広がり、世界中の政府がなんとか自国経済を守ろうとして次々に救済策を発表している。しかし、アメリカの資金投入がUS$ 700,000,000,000 とか言う話になってくると、あっという間に一般人としては感覚をうしなってしまう。そんな数字は生活の中に入ってこないからだ。崩壊過程の長い連鎖のどこかで繋がり、自分の小さな家庭を崩壊させる怒涛の嵐が、突然現れるのもそんなに遠い話ではなさそうなのだが。かといって、何ができるか言えば、とりあえずは何もすることがない。

* * * * * * 

世界全体の経済が縮小すれば、我々の業界に配分されるお金も当然減るだろう。そして、その兆候は既に出ている。来年の予算の編成期なのだから、それに敏感に対応した予算削減策を講じないといけない、というのが普通の考えだろう。ところが、100億円の予算のうちに、実際に裨益者に渡るお金が50億円だったとしよう。他の50億円は官僚組織間を通過するたびにピンはねされ、最終的には職員が食ってしまったわけだ。これだけで、言語道断と怒鳴る人が二人か三人くらいいても良いと思うのだが、もうそういう人はほぼ絶滅しつつあるのが、この業界の実情でもある。国連からの頭脳流出が始まって既に久しい。

さて、来年の予算が100億円から50億円に減ったとしたら、どうするか。ことは国際協力ではないか。なんとしてでも、裨益者の減少分を最低に抑えるべく、予算縮小を元々肥大化している官僚組織のスリム化でもなんでもして吸収するべきだというのが、まっとうな考えだろう。

しかし、予算縮小の匂いを嗅ぎ取って、真っ先に見えてくるのは、自分たちのポスト(職)の確保・維持に奔走する輩だ。いまさら驚きでもなんでもないのだが、美しく響く人道援助は、こういうあからさまな貪欲さと表裏一体になって実施されてきたというのが事実なのだ。それがどうした、と言えばどうもしないのだけど、それでもあなたやりますか?

* * * * * *

テレビを見ていたら、米大統領選と世界経済の凋落にひっかけて、日本の政治もちょろっと出てくるし、日本の株価下落もちょろっとニュースに出てくる。しかし、それは中国やインドやドバイのニュースとそれほど異なった扱いを受けるわけでもない。突然、政治部門のニュースからナショナル・ジオグラフィックのチャンネルに変わったのかと思うくらい、世界の蚊帳の外の奇妙な部族の動きを紹介しますなんて調子で日本のニュースを世界に放映している。日本の個人名はひたすら覚えにくいのだから、誰がどうしたこうしたなんて話はとんと世界には届かない。日本の政治の行く末が世界に与える影響なんてことを話す人もいるが、ブータンで憲法が施行される方が大きなニュースになるのは間違いないのだ。

到着したばかりの新潮社『フォーサイト』を読んでいたら、日本政治に関するコラムで、“ただの混乱”という見出しを見つけた。これは実にすべてをうまく物語っている、絶妙の見出しだと思った。明日、もし誰かに日本の政治のことをきかれたら、「ただの混乱」と答えることにしよう。

No comments: