International Herald Tribune (14 May 2007) を見ていたら、Japanese film of kamikazes sparks antiwar feelings という見出しが目に止まった。どの映画だろうと思って記事を読み始めた。見出しだけ見ると、とんでもない戦争賛歌の映画があって、それに反戦運動が盛り上がる、みたいなお決まりの構図を思い浮かべてしまうけど、どうやらそうではないらしい。なんか妙な出だしだった。
Tokyo: A film celebrating World War II kamikaze pilots and written by the nationalist governor of Tokyo has opened in theaters, sparking more of a pacifist than a patriotic response from audiences.
この映画はカミカゼ特攻隊をcelebrate した映画?
でも、見た人は愛国主義的というより平和主義的に反応する?
で、なんとShintaro Ishihara が原作者で、Shinjo Taku という人が監督らしい。"For Those We Love" が映画のタイトルらしいが、邦題はきっとかなり違うものになってるだろう。IshiharaさんとShinjoさんは、カミカゼと現在の自爆攻撃の違いを主張しているらしいが、共通点を主張する人の意見も載っている。
"The similarities in the selection of young men to carry out these one-way missions and the methods used to convince them cannot be ignored," said Linda Hoaglund, one of the makers of "Wings of Defeat," a documentary film about the kamikaze set to be screened in Japan later this year.
"Wings of Defeat" もまたかなり異なった邦題になるのかもしれないが、両方の映画を見てみたいものだ。
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今日のIHTの一面トップはアフガニスタンのカラー写真だったので、当然、現タリバンというかネオ・タリバンの実質的なトップコマンダーであるDadullah の死亡記事だろうと思ったら、なんと違っていた。一面トップの見出しは、
Civilian deaths turn Afghans agaisnt NATO
カブールに住んでいる人間にとっては、今さらとしか思えない話だが、まさに今さらこういうことがやっとちょろちょろと記事として出てくること自体がもう大失敗の一部であるのだろう。
ZERKOH, Afghanistan: Scores of civilian deaths over the past months from the heavy U.S. and allied reliance on airstrikes to battle Taliban insurgents are threatening popular support for the Afghan government and creating severe strains within the NATO alliance.
Afghan, U.S. and other officials say they worry about the political toll the civilian deaths are exacting on the Afghan president, Hamid Karzai, who the week before last issued another harsh condemnation of the NATO tactics, and even of the entire international effort here.
What angers Afghans are not just the bombings but also the raids of homes, the shootings of civilians in the streets and at checkpoints and the failure to address those issues over the five years of war. Afghan patience is wearing dangerously thin, officials warn.
ここまでは、5年前に予測されていたこと。問題はこれに対して真剣な検討も改善策もないまま5年間経ってしまったってことでしょ。
そして、別の問題は、軍隊を出している国々の間での意見の不一致。
The civilian deaths are also exposing tensions between U.S. commanders and commanders from other NATO countries, who have never fully agreed on the strategy to fight the war here, in a country where there are no clear battle lines between civilians and Taliban insurgents.
さらに「現地」と「本部」の間の温度差でとどめを刺される。
At NATO headquarters in Brussels, military commanders and diplomats fear that divisions within the alliance and the loss of support among Afghans could undermine what until now was considered a successful spring one in which NATO began a broad offensive, but the Taliban did not.
そして、なんの関係もない一般市民が米国とNATOにボコボコにされて(虐殺の定義に入ると思うのだけど)、フツーの村人が立ち上がり、そして立ち上がったばかりにアメリカ同盟軍やNATO指揮下の国際治安支援軍に殺されるまでの構図がよく描かれている。
The accounts of villagers bore little resemblance to those of NATO officials --- and suggested just how badly things could go astray in an unfamiliar land where cultural misunderstanding quickly turn violent.
The U.S. military says it came under heavy fire from insurgents as troops searched fro a local tribal commander and weapons caches. The troops called in airstrikes, killing 136 Taliban fighters, the U.S. military said.
The villagers say there were never any Taliban in the area. Instead, they said, they rose up and fought the Americans after the soldiers raided several houses, arrested two men and shot and killed two old men on a village road.
After burying the dead, the tribe's elders met with their chief, Haji Arbab Daulat Khan, and resolved to fight U.S. forces if they returned.
"If they come again, we will stand against them, and we will raise the whole area against them, " he warned.
こうやって殺されていく普通のアフガン人をアメリカはタリバンとしてカウントする。
これに続く段落にそのバカさかげんを示す、あるアフガニスタン在住外交官の言葉が引用されている。
In the words of one foreign officials in Afghanistan, the Americans went after one guerrilla commander and created hundred more.
そして、Dadullahの記事は第6面に回されていた。こういう記事の配列にすでに編集者の識見が出ている。日本の新聞は、こういう質の面ではすでに比較にもならないほど引き離されてしまっている。あるいは最初からそうだったのか。商品のディスプレイ一つにそのお店の思想が現れるものだが、日本の新聞にはセンスの悪い雑貨屋のような印象しか受けない。まあ、そんなことはみんな思ってるだろうから、あえて追求しないが。
さて、最初の記事を読めば、すでに何故Dadullah 一人の死が後に回されるのかは明らかだろう。この記事に中ではMustafa Alani という人のコメントが上の記事との繋がりをよく示している。Mustafa Alani はDirector of Security and Terrorism Studies at the Dubai-based Gulf Research Center。彼は次のように言っている。
"The death (of Dadullah) would have little long-term impact. In this sort of organization, people are replaceable, and always there is a second layer, third layer. They will graduate to the leadership"
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『週間朝日』(5月4日11日合併号2007年)を開くと、林真理子の対談相手が岸恵子。なんと岸恵子さんが、あの映画の主演をしているではないか。邦題は『俺は、君のためにこそ死ににいく』だって。
岸「実は私、この映画に出るの、最初はすごく躊躇したんです。脚本が石原(慎太郎)さんだし。」だって。
岸「第一稿は、特攻で散ってゆく若者が少し美々しく描かれすぎているように思いました。私、戦争を知らない日本の若い人にこういう映画を見てほしいし、世界の人、特に東洋の人たちに見てほしいけど、外国人が見て、特攻隊員がみんな喜んで死んでいったんだと錯覚されるのは危険だと思ったんです・・・・・」
岸「私、「石原さんにお会いして、直接お話したい」と言ったんです。」
岸「じゃ、都庁に来てほしいと言われたので、「政治家の石原さんにはお会いしたくないので、都庁にはうかがいません。ホテルの会議室をとってください」と言ったら、とってくださったんです。」
で、結局2時間みっちり話されたそうだ。石原さんの「この映画は戦争賛歌ではない。戦争反対でもない。ただ、史実としてこういうことがあったということを伝えたい」という言葉を引き出したらしい。そして、本人としては「でもこの映画に、私は戦争反対の気持ちで出たんです。」と岸恵子さんは言う。
話はあちらこちらに行くけれど、岸恵子さんの明晰で美しい言葉の連発に、ほとんど枯山水状態になって久しい情欲が火照ってくるのに気がつく。なんて素敵な女性なんだろう・・・
林「・・・・戦争に対する今の日本の考え方は、ちょっと違ってるんじゃないかと思いませんか。」
岸「戦争に対するきちっとした考え方を誰も持ってないと思いますね。アメリカ追随が生んだ、戦争に対するある種の安堵感、アメリカが守ってくれるみたいな気分があるんじゃないでしょうか。のんきだと思いますね。いざとなったら、守ってなんてくれないと思いますよ。小泉さんにしても安部総理にしても、一般の日本の人も、みんな目線が国内に向いているように思えるんです。もっと日本の外に向ってアピールしないと、わかってもらえないことはたくさんあると思う。私は、そのために、この映画に出たんですけどね。」
何十年も前に緒方貞子さんが書いた論文にも同じ趣旨のことが書いてあった。もちろんもっと学術的にだけど。
日本が国内事情主義から脱出する時は来るのだろうか?
岸「本は書き続けていきたいですけど、私が書くと、皆さんが想像してくださる岸恵子とは、全然違う別の世界になっちゃうでしょう?たとえば『砂の界へ』(文藝春秋)ではイスラムの世界のことを書きましたし、『ベラルーシの林檎』(朝日新聞社)はユダヤ問題だったし。」
えーーーーー、そんなの書いてたんだっ?!読まなきゃ!!!
そして、最後のページに来て、のーてんチョップ。
岸「本当にもうちょっと日本人は、世界に目を向けたほうがいいと思うんです。なぜアフガニスタンが、今日のような問題を抱えたのか、なぜアルカイダが生まれたのか、なぜオサマ・ビン・ラディンのような人が生まれたのか。袋だたきの目にあうかもしれないけど、誤解を恐れずに言えば、ブッシュとオサマ・ビンラディンを並べたら、ビンラディンのほうが、ずっといい顔してると思う。」
林「おお・・・・・・。」
岸「ゆえない蔑視や屈辱に耐え、辛酸をなめた人の、深くものを考える顔をしていますよ。結果、やっていることは人類にとって最悪の事態になっちゃったけれど。誇り高い人が、憤りに燃えるのは、他者から無視され、ばかにされるからでしょう?イスラム教があったからこそ、地中海文明も世界中に広まったわけだし、そういうことをすっ飛ばしちゃって、あるいは知らん顔をしてるのかもしれないけど、ブッシュは「アフガニスタンのあとはイラクだ」と前から言ってましたね。まさかと思ってたんです。だから、国の指導者を選ぶって大事ですよね。」
5年前、ブッシュとオサマ・ビンラディンの顔について、まったく同じようなことを言ったことがある。僕にはあの顔の違いは圧倒的だった。一方が日本猿そっくりなのに、他方は哲学者のようではないか。それを聞きつけたある編集者が是非それを書いてほしいと言って来た。しかし、僕はとうとう書かなかった。すでに誤解の渦の中で十分うんざりしていたというのが直接的理由だったけど、もっと本質的には書く勇気がなかった。
それを岸恵子さんはあっさりやってのけている。素晴らし過ぎる。
岸恵子さんになんとか一度お会いしたい。話をしたい。100年くらい続くかもしれない。あぁ、いいなあ。
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なーんて、恋心でボーっとして飛行機をおりて、タクシーに乗って宿について、2時間くらいして午前2時になった。そして、ハッと気がついた。
ギャー!パスポートを入れたバッグを失くした!もうーっ!アホ。