Saturday, August 06, 2005

Tew Bunnag

というのがタイの作家の名前だった。本のタイトルは、
"fragile days - tales from bangkok".
全部小文字。

表紙は、緑の葉っぱが茶色く枯れた葉っぱのバックの上にのっていて、さらにその上にいかにもfragile なタイトル文字がかぶさっている。美しいです。
表紙の一番下にたぶん日本なら帯にのりそうな文句が直接印刷されている。

"Uneasy snapshots of everyday life in Bangkok...
where traditional values hang in a delicate balance."

ちゃんと内容を味わっている編集者がいるんですね(いつか日本の本の帯のデタラメな文句がいかに本の内容を誤解させているか、本の価値を破壊しているかみたいなことを書いたような気がするがどこに書いたのかな)。

この文句を読むと、タイの夏目漱石的存在なのかなとも思う。「夏目漱石+アーウィン・ショー+村上春樹」という印象は、日本が近代化にかけた百年を一気に駆け抜けざるを得ないタイの現状をかなり反映しているのかもしれないと思ったりする。

ところで、この本はオリジナルではないらしい。
「Quintessential Asia」という名のシリーズの一冊で、アジアの最もすぐれた文学的「声」のショーケースたらんとしているということです。シンガポールのSNPインターナショナルという出版社がアジア各国から新人とかベテラン作家とか関係なく優れていると思う作品を集めてシリーズものとして出版している。ありとあらゆるものの中身と評価の間になんの関係もなくなった日本から見ると、このシリーズ自体興味深い。このシリーズは"promises to inform, provoke and delight"なんて書いてあるけど、確かに"fragile days"に関するかぎり、それはウソではなかった。他の本も手に入れたい。

ところで、Tewさんというのは、あるとても有名な貴族の息子さんらしい。タイ史に関して完全な無知なのでまちがった解釈をしている可能性があるが、裏表紙に書いてあることの字面だけ追ってみると、19世紀のチュラロンコン王の時代に絶大な権力を持っていたサイアム(シャム)の摂政である、スリウォン・ブナンというタイ史ではとても重要な人の直系の子孫なのだそうだ。

Tewさんは1947年生まれで、ケンブリッジ大学(キングス・カレッジ)で中国語と経済学を勉強した。1968年に卒業して、1975年まであちこち放浪の旅に出ていたようだ。優雅だねえ。その間にケンブリッジのはずれで瞑想と太極拳とヨガと西洋ものを混ぜ合わせて、精神セラピー・センターなるものを作ったりしてる。

1985年からはギリシャとスペインに住み始めた。二国間を行ったり来たりってことだろうか。ずっと外国にいる間もTewさんは常にタイで起こっていることは、ちゃんと注視していて、浦島太郎状態にはならなかったそうだ。

2000年にようやくバンコクに戻ってきて、バンコク港地域にあるエイズ患者のホスピスで彼らの世話をする仕事を手伝い始めた。(バンコクって海に面していたのか?)

これまでに本を二冊出していて、その他にも瞑想とか太極拳に関する記事をたくさん書いているらしい。

最後に、『壊れやすい日々』に収録されている短編のタイトルだけ、ほぼ直訳して書いておこう。
「幽霊の話」
「忘れるべき一夜」
「ジード、弟を探す」
「花売りの少女」
「ギャンブラー」
「失踪」
「女の復讐」
「アイ・ジェイの後悔」
「愛がタミーを癒す」
「エピローグ:バンコクの街の歌」

Tewさん、会ってみたい人だな。

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