Friday, February 16, 2007

二人の天才少女

NYからやってきたレーコとセヴィルが僕の部屋を基地にして、
いろんなミーティングに行っては帰ってくる。
そのうちの半分くらいは僕もいっしょに行くけど、
行かないのもあるから、そういう時は基地に帰還してきたら、
「ミーティングどうだった?」って訊く。

「うーん、基本的にはバカの激突なんだけどぉ、
またバカを隠そうとする人がいるでしょ、
で、話がややこしくなっちゃって・・・」

レーコらしいと思いながら、僕は笑いながら簡潔な要約を聞く。
やることは死ぬほど膨大にあるんだから、いちいち誰がバカだとか罵ってる暇もない。
だから、へらへら笑って基地で仕事を進めるしかない。
こうやって、まったく何にもすることがない人が95%くらいいて、5%がボロボロになってしまう。
やがて、5%は燃え尽きて辞めていく。そして、国連のクズの吹き溜まり化がいっそう進む。

NYからミッションが来ると普通は仕事の邪魔になってしょうがない。
たいていバカの大名行列みたいなもんだから、話してる時間が思いっきりムダになる。
なんて話をすると、官民問わず、どんな組織の人も深くうなずくので、
これは人類的傾向なのかもしれない。

しかし、今回は100%例外になった。レーコが来るというだけで勝手に心が躍ってるわけでなくて、
ミッションが発信する内容のレベル・スケール、こっちが発する情報に対する受信感度が今回は全然違う。

だから、一日一日の進展・停滞が雨雲が晴れていくようにかなり顕わになる。
普通のミッションでは、何を言いたいのか分からないバカ殿とか、
空想の世界の話を現実と思い込んで延々と話続けるドン・キホーテを相手にしなければいけないので、
最終日の頃にはフラストレーションが極点に達して、もう人類を救うという崇高な目的のために、
こういうバカ殿には自爆テロでも仕掛けるしかないのかという衝動でいっぱいになってくる。

セヴィルには初めて会ったけど、これはすごいかもしれないと思った。
旧ソ連下で英才教育の恩恵を受けるために死ぬほど勉強した元天才少女というイメージができあがった。
娘さんも13歳でSATを受けると言ってたから、天才の血筋なのかもしれない。
レーコと二人合わせると、IQは400くらいになってしまいそうだ。
僕のオフィスは400人全部合わせて、IQ200くらいだろうと思う。
まあ、IQがすべてじゃないんですけど、とりあえず普通に仕事の話ができる程度に揃えてくれるとありがたいとよく思う。

まったく基本原理の異なった二つの予算フォーマットを、
田舎っぽいエクセルを通してコンバートできるようにする話を、
前回NYからやってきたミッションにしたのだけど、全然理解せず、
あげくのはてにトンチンカンなまとめを一人でやって帰ってしまった後だったから、
セヴィルがあっさり理解して、
「じゃあ、その変形はあたしがやっておきます、三日あればできます」なんて言ってしまった時は、
僕もアミールもおしっこをちびる権利があると思ったものだ。
最終的にはオラクルに外注して、カッコイイソフトにしてしまう予定なので、
その前に早く基本構造を決めてしまいたいらしい。

マネジメントに必要なのものはいっぱいあるけど、やっぱり最後はartistic creativity じゃないのかって疑いがこのところ日々深まっていた。
近所にはMBAとかPh.Dとかもってる人はゴロゴロいるし、喋らせたら、いくらでも喋るし、
いろんなスキルも持ってるのに、仕事をするとなると、もうメチャクチャという人がものすごくたくさんいる。
いったいこれはどうしてなんだろうって、よく考えていたのだけど、最終的に行き着いたところは、
「あの人たちはみんなセンスが悪い」ということだった。
おしゃれとかそういうことを言っているのではなくて、だったらなんと言えばいいか分からないのだけど、
一度会えばもう隠しようもなく十分に出てくるもの。その発言とか振る舞いの端々に現れてしまうもの。

レーコがスーダンでやったことのブリーフィングを受けた後、一人になった時間に、
彼女がスーダンで作ったツールを後で一つずつ見ていて、やっぱり最後は、creativity だと確信した。
よくよく見ていくと、レーコはコンサル会社が何億円もの金額で受注してやってくれるような、
(そしてたいてい失敗するような)組織の根本的改革を1年ちょっとの間に一人でやってしまったことが分かる。

「レーコはirreplaceable」とセヴィルは言っていた。
きっとレーコの理解者は限りなく少ないだろう。
そして、「セヴィルについていける人はNYには一人もいない」とレーコは言っていた。
それは容易に想像がつく。いつかフラストレーションがセヴィルの頭をまるごと吹っ飛ばしてしまうんではないだろうか。

レーコとセヴィル、二人の天才少女が同じオフィスにいてホントによかったと思う。

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