Tuesday, September 26, 2006

月謝

アフガニスタンでは金・土が休日だが、9月24日の日曜日はラマダンの開始ということで休日になった。サラダオイルがなかったので、近所の何でも屋に歩い て買いに行くことにした。現地の店に行くことは禁止ということになっているのだが、自分の住んでいる地域なので顔見知りは多いし、サラダオイル一つのため に、わざわざオフィスから断食中のドライバーを呼んでデューティ・フリー・ショップまで行くのは、あまりにバカバカしい。

歩き始めると、そこら中の暇を持て余した警備兵たちがカラシニコフをぶら~んと下げて、力なく、もやあっと片手をあげて挨拶する。僕も「やあ」みたいな声 をかける。特に会話はないけど、お互いの顔は知っている。この地域に住んでいるのはほとんどが外人なので、それぞれの家の前には必ず警備兵用の木の箱みた いなものがあり、彼らはそこで寝泊りし、飲食もそこでする。ほんとに退屈だろうと思う。もし、武器を持った何者かが襲ってきたりしたら、絶対に彼らは逃げ るだろうと思うし、逃げるべきだと思う。本気で武器を持って攻撃されたら、彼らがどんなに抵抗をしたところで勝ち目はまったくないのだから。

しばらくすると、少年二人がついて来た。彼らはストリート・チルドレンと呼ばれているが、アフガニスタンのストリート・チルドレンの実態に関する本格的な 調査は見たことが無い。彼らに関わっているNGOとか、彼らに関心を持ったジャーナリストの断片的情報ならいくつかは見たことがあるけれど。

二人の少年と話しながら、お店までの道を歩きながら、ふと気が付いた。彼らとの会話のスムーズなこと、まったくストレスがないこと。すべて英語なのに。
オフィスのアフガンスタッフとのコミュニケーションでは、中途半端な英語で、しばしばストレスがたまる。そんなスタッフより、この少年二人の方がずっとましではないか。

少年は二人とも12歳だった。空港の近くの集落に住んでいる。朝8時から1時間英語を教えてもらうために都心に住む先生のところにやってくる。9時から1 時間自分で勉強する。10時から2時まで現地の学校に行く。2時からこの地域に来て、何か仕事がないか探す。夜家に帰って自分で英語の勉強をする。

空港から都心までは3キロくらいあるだろう。毎朝歩いて通うそうだ。英語の先生というのはおそらく教育のあるアフガン人の内職のようなものだと思う。毎月 の月謝が高いので大変だと少年二人は言っていた。いくらかきくと、月10ドルだった。ノートが欲しいが買えない。1年ほど前、彼らにノートをあげたことが あった。それから何度かもう使い終わったので新しいノートが欲しいと言いに来たことがあったが、その後一度もあげたことがなかった。忙しくて買いに行く時 間が無かったというのが主観的な理由だが、本気で買いに行く気があればいくらでも買えただろう。

店に着いて、僕が買い物をしている間も少年二人は外で待っている。荷物持ちという仕事にありつけるかどうかという瀬戸際なので、少し緊張しているように見 える。しばらくするともう一人別の少年が合流した。買い物中にちょうど断食明けの合図が店にあるテレビから流れてきた。これからまずお祈りをしてみんな一 斉に食べ始めるのだ。この断食明けの食事をローザーという。

少年たちのローザーになるものを何か買おうと思ったが、デーツとかパコーラーとかは、この店には売っていなかった。しょうがないので、ビスケットをおおめに買った。買い物を終わると、少年たちは僕の買い物袋を競って取り上げ、歩き始めた。

ローザーはどうするの?ときいてみた。今日はお金がないから、ない、ということだった。今日はまったく仕事にならない一日だったのだ。どうしたものか。途 中でどこか別のお店によって、もっとローザーに適したものを探して買うか、あるいは荷物持ち料金を払うだけにするか、ごちゃごちゃ考えている間に自分のゲ ストハウスに着いてしまった。道中でいつの間にか、また一人別の少年が合流していた。

もう何も選択肢はない。買い物袋を開けて、ビスケットを一人に一箱ずつあげた。少年たちは、とても普通に、はにかんだ笑顔を見せた。こんな笑顔もあったの だということをカブールの毎日では忘れていることに気がつく。よく考えてみれば、僕はほとんどいつも不機嫌ではないか。また、ノートを仕入れておこうと深 く決心した。が、また忘れるだろうとも思う。

たった10ドルの月謝。一日1時間の授業。過酷な仕事。それで、彼らはここまでちゃんと英語を習得できる。いったい日本の大学生の何人が彼らと普通に話ができるだろう?日本の英語教育は間違っているなんてレベルの話ではない。もう根本的に何かが違い過ぎる。

翌日、リー、ナタネール、ミゲナと4人でレバニーズ・レストランでランチを食べながら、この話をした。結局、我々は、国連は何をしているんだという問にぶ つかり、みんな落ち込んだ。カブールのストリート・チルドレン全員に毎月10ドルの奨学金を出したとしても、毎月1億円もいらないだろう。毎日何億円とい うお金が国際協力という名の下に使われているのに、そんなお金はこの少年たちとはまったく関係ないところに消えてなくなっている。国際社会とやらが小難し い戦略やら政策やら延々と議論して腐るほどペーパーを作って、単純なことが、もはや誰にもできなくなっている。ストリート・チルドレンたちは、そんなこと とは関係なく着実に育っていっている。

レバニーズ・レストランのランチは四人で60ドルだった。あの少年の半年分の月謝が払えるなと思った。

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