Thursday, February 14, 2008

仕事は夢の中

猫も杓子もERP。
とうとう国連事務局もERP 導入に踏み切ることになったそうだ。潘基文さんが連れてきたIT部門のトップの人が頑張ってるとか。ERP 導入のための予算が欲しいなんて言われても、加盟国の外交官でそんなこと知ってる人はまずいないんではないだろうか。IT専門家から外交官になるって例は、あるかもしれないが、きいたことない。

先週、NYに行った時にある外交官にERP って何か訊かれたけど、説明するのが難しい。Enterprise Resource Planning system をERP といっているのだけど、これは一般名称で、商品名はいろいろある。いろいろと言っても、あまりに巨大なソフトで一般人がお店に言って買うようなものではないので、今は実質的には合併統合などの後、二社の独占になっているようだ。

ウィキペディアを見ると、Enterprise Resource Planning (ERP) systems attempt to integrate all data and processes of an organization into a unified system. A typical ERP system will use multiple components of computer software and hardware to achieve the integration. と書いてある。分かったような分からないような。

これを毎日相手にしないと仕事にならないので、よく分かっているかというと、全然そんなことない。ERP のロジックには難しいことはない。そもそもロジックに難しいも易しいもないかもしれない。しかし、現実に使いこなすというレベルにまで到達するのは簡単ではないと思う。何千ものファンクションがあるだろうけど、知っているのは1%くらいか、それよりも少ないかもしれない。

それにもう覚えられない。もともと記憶力は悪いのだが、日に日に悪くなっていく。一つのことをするのにいくつものステップを通過しなければならないシステムはもう覚えられない。Mac のように直感に連動するようにデザインされているわけでもない。あくまでも、ユーザーがERP さんのロジックをフォローしていかなければうんともすんとも動かない。

ERP を組織に導入するには、何億円とか何十億円とか全然分からない額のお金がかかる。しかし、パッケージ商品を買うだけではまず使えない。その組織に合うようにカスタマイズしなければいけない。これがまた巨大な資金を必要とするそうだ。今、僕の組織が使っているERP はカスタマイズのお金をケチったので、まったく使い勝手が悪い。用語さえ、実際に使う用語と一致しないので、頭の中で翻訳しながら使うようなはめになる。 ERPのあの言葉は、うちの組織のあの言葉に相当する・・・というような作業が頭の中で起こっている。

ウィキペディアにもこんなことが書いてあった。Customizing an ERP package can be very expensive and complicated, because many ERP packages are not designed to support customization, so most businesses implement the best practices embedded in the acquired ERP system. 実にその通りだ。

最初はまったく何も分からず呆然としたが、3ヶ月ほど経過して、結局何もかも分かっている人は一人もいないのだということに気がついた。みんな綱渡りのようにERP を使っているのだ。そして、毎日がトラブルの連続で、それを解決するのが毎日の仕事になってしまう。実に効率悪いと思う。これはいったい何のためのシステムだったのか。

ERP を国連事務局が導入することを、どう思うかと訊かれた時にまっさきに思ったのは、いったい誰が使うんだということだ。今いる人を徹底的に再トレーニングするつもりなのか、それとも新しくERP 要員のような人を雇うのか。ERP システムにかけるお金よりも、人にかけるお金を考えないと、まったく無駄な投資に終わってしまうだろう。

ウィキペディアにはこう書いてある。Success depends on the skill and experience of the workforce, including training about how to make the system work correctly. Many companies cut costs by cutting training budgets. ほんとその通りだ。僕がトレーニングを受けたのはたったの二日間だけだった。

ERP はオンラインで世界中つながっているので、オフィスで終わらない仕事を結局家でやるはめになる。午後10時には睡眠薬を飲んで寝ようとするのだが、そんなにすぐ寝れるわけでもない。起きている間に少しでも処理しておこうとERP につないでしまう。そして、いつか寝て、また起きる。

不思議なことに、翌朝何も覚えてない。何をどこまでやったのか。そもそも手をつけたのか。覚えてないのだ。オフィスに行って、またERP に繋いでみる。今日しようと思っていたのが終わっていたりする。あれっ、誰だ、これやったのは、なんて一人でうなるのだが、自分しかいない。背筋が冷たくなる。夢の中でやっているようなことで、めちゃくちゃではないだろうかといちいち仕事の後をトレースしてみるが、まちがっていない。実に不思議だ。こういうシステムの時に使う脳というのはものすごく偏った部分にあるのではないだろうかと思う。他は寝ていて、そこだけが動いているというような気がする。

飲んでいる薬をウェブで調べてみたら、副作用に健忘症とあった。単に薬のせいなのかもしれない。

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