Wednesday, December 21, 2005

見た、来た、治った

バンコク発が午後11時40分で、成田着が午前7時半なので、チェックインが早くなるという連絡を入れておいたのだが、ホテルのチェックインカウンターの女性は「はあっ?」て顔をあからさまに見せてくれた。飛行機の中でまったく寝ずに本を読んでいたので、頭がボーっとしていて、何も言う気にならず、「はあっ」女のなすがままになっていた。

前回も別のホテルで同じことが起きた。こういう時、自分も日本人なのを忘れて、日本人は案外いじわるだと思ったりする。外国で何か嫌な目に合うと、とりあえずそこの国民すべてが悪いと思うことによってカタルシスを得ようとする心理と同じだ。

結局、恩着せがましく「今回は部屋がありましたので」という枕詞とともに、部屋をあてがわれた。部屋まで案内してくれた別の女性に、インターネットすぐに繫げられますかと念のためにきいたら、ラインチェンジャーをお貸しさしあげますだって。

まったく「はあっ?」でしょ、それは。今どき、この自称先進国でダイヤルアップなんて使ってる人いるのか?僕のコンピュータにはそもそも電話線を突っ込む穴さえ付いていないことを約1年前に発見したのだ。

しかし、ミス・りんごのような、この女性に何も罪はないので、チェックイン時の不愉快さは残っていたが、丁寧さに全力投球して、すんません、LANはないですか?と訊いてみた。

「ああ、高速ネットワークですね。この部屋にはありませんが、ある部屋もありますので、お部屋を交換いたしましょうか?」だと。そうかチェックインの時にちゃんと言わなかった僕が悪かったのだ、みんな僕が悪いに決まってる、で、どうしてそういうこと最初に訊いてくれないかななんて微塵も思ってはいけない、ここは日本なんだ、アフガニスタンや、パキスタンや、UAEや、タイと違って、融通なんてコンセプトは江戸時代に朱子学を導入してから消滅したんだと思うことにした。もうすぐ赤穂浪士もやってくるではないか。

ミス・りんご(かなり可愛い)は、部屋からフロントに電話して高速ネット部屋がないか訊いてくれているが、どうやら相手はごねているようだ。電話を僕に代われと言っているらしい。けっ、もったいつけやがって、なんて思わずに、また最後の力をふりしぼって、丁寧に喋ろうとしてみた。

あいにく高速ネットのある部屋は全部うまっていて、12時まで待たないと空かないということだった。待っている間にネットに繋ぐ必要があれば、ラインチェンジャーを・・・とまた言い出す。うるさいよ、てめえと思いながら、その、僕のコンピュータは古くて性能が悪くて融通がきかないもんで、ダイヤルアップの接続ができないんだって、みたいなことを言おうと思ったが、もうどうでもいいから、12時までこの部屋で待っているから、部屋が空いたら連絡してくれるように頼んだ。もう早くベッドに倒れこみたいだけで、インターネットなんて話題を持ち出す僕が悪かったに決まってるんだから。

ミス・りんごが帰って、服を脱いで横になろうとしたら、もう電話がかかってきた。部屋が空きましただって。なんじゃ、それ?ひょっとして、大阪で言う「値打ちこき」?

3時間ほど寝て、『フォーサイト』のショーコさんに電話した。連載の予定について話をつけなくてはいけないのだった。1時間後、ホテル内のお店でショーコさんに会い、僕はコーヒーとサンドウィッチを頼んだ。今思い出したが、前回もショーコさんと話をした時(別のホテルだったが)、僕はコーヒーとサンドウィッチを頼んだのだった。僕はどうやらサンドウィッチが好きなのだな。

毎月一回の自分の原稿に、こんなんでいいんだろうかという疑問が日増しに高まっていたので、ショーコさんに思い切って打ち明けてみることにした。俳句のようにもっと魂が入ったものを書かなくてはいけないのではないかとか、月刊と言えども一貫した思想を追求する姿勢が必要なのではないだろうかとか、考え出すときりがないのだ。

しかし、そういうこととは関係なく、今日はふとショーコさんって若いんだなと思ったので、そう言ってみた。高尚な文学論になるはずが、間の抜けた出だしで始まってしまった。その時はうかつなことに思いつかなかったが、ショーコさんは結婚目前で、そういう時期の女性はどうも光り方が違うと前々から思っていたが、そういうせいかもしれない。そう言えば、外務省をやめて国連に行ったコダマさんという女性はそういうこととは全然関係なく、年中結婚間近っぽいハッピー系の人相をしていて、まぎらわしい人であったのを思い出した。

肝心の話の内容は大して進展もなかったが、ショーコさん自身の文章がとても優れものなので、おまかせコースでいいじゃないかという気分になった。編集者の役割というのはおもしろいものだと思う。励ましたり、持ち上げたり、厳しく叱ったり、またなだめてみたりと、いろいろやることが多いのだろうなと思う。

その後、1時間ほどして、higashiuraと落ち合い、寿司清に行った。今日はおいしいイカがあった。こりこりっとした小さいイカが僕は好きなのだ。大きいイカの場合は、ミミの部分がやはりこりこりしていて好きだ。飲食店内でお客さんがタバコをすいまくってる風景が新鮮だった。8日間タバコをすってなかったが、今日から復活した。

その後、タンテに久しぶりに行った。タンテはだんだんたくさん立派なウイスキーを仕入れるバーになってきたけど、なぜか今日は焼酎が飲みたくなって、ないと思ったけど、訊いてみたら、かなり立派気な焼酎が一本あったので焼酎を飲むことにした。

リューちゃんは酒を飲まなくなったそうだ。昔々は、バケツで行水をするような飲み方をしていたが、パタッと飲むのを止めたらしい。僕もそうなので、その感じはよく分かる。そもそもお酒なんておいしいと思って飲んでいなかったと思う。たくさん飲むからといって好きとは限らないではないか。

かなり飲んでから、higashiura はテツとか本位田とかに電話しているが、もちろん誰も出ない。今頃子供をお風呂に入れているんだとか言ってる。最後にhigashiura はウメに電話した。ウメは電話に出た。今、家に帰ってきたところらしい。相変わらず遅くまで仕事して、遅くまで飲んでるのかね。

ゴトー・ケンジが12時過ぎに来ると言っていたが、もう1時を過ぎていた。最後に飲んだミント・ジュレップが効いてきて、なんか頭がくらくらしてきたので、そろそろ帰ることにした。「もう1時過ぎてるで」とhigashiura に言うと、「えっ?電車ないやん。10時くらいやと思ってた」やと。なんとのんきな。どうやら、本気でテツとか本位田が子供をお風呂に入れる時間やと思っていたらしい。

時には、ショーコさんやhigashiura のように、まったく自分と異なる業界の人と話をするのは精神の健康に必要なことだと思った。

ところで、ゴトー・ケンジ、どこ行った?

No comments: