アリス・クーパーには驚いた。
一瞬のメロディ・ラインで意味もなく目頭が熱くなるような、そんな曲が出てくる。えーっ?これ、アリス・クーパー?って何度かi-Pod の小窓で確かめてしまった。
アリス・クーパーがきれいなコーラスしてどうするんだ、ビージーズじゃないんだから。
アリス・クーパーというのは、おどろおどろしいメークをして、アメリカ版ホラー系グラムロックの先頭を走って、ステージにニシキヘビを持ってきて演出したりして、演奏というより爆発音をバックにしてうるさくガラガラにかれた声で怒鳴るように歌う、それが35年前に僕が持っていたイメージだった。
それが、生ギターにピアノにおまけにストリングスまで入って、きれいな、きれいなコーラスが流れてきて、よっ、好青年!みたいなアリス・クーパーの歌声が次から次に流れてくるではないか。
しかし、よく考えれば、僕が35年前に聞いていたのは、シングル盤に入っているSchool's Out と Elected だけだった。そして、あとは音ではなく雑誌を賑わす彼の写真だけがアリス・クーパーのイメージを形成するすべてだった。でも、世界中の少年たちも当時同じように思っていたのではないだろうか。
突然、サド侯爵を思い出した。サド侯爵は確かに言葉的には元祖SMだけど、彼は恐ろしく美しい小説を書いている。心も姿も美しい女性を作ってしまうサド侯爵。現代で言えばマンガ的なほど美しくて、文学にはならんってことなんだろうと思うけど、そういうサド作品を読んで初めて、世に知られている方の、徹底的に汚く、女性を嫌悪するサド侯爵の作品が腑に落ちたことを思い出した。空想の中にだけ住んでいた女性が、現実の女性によって裏切られるという儀式をすべての男の子達は通過していくけど、サドさんはそれに抵抗したか失敗したかで、死ぬまで現実に抵抗し続けたように思う。
僕の頭の中では、太宰治はサド侯爵に似ている。あり得ない美しい心の女性が登場するサド小説と、汚物まみれの女性を汚物よりも蔑むサド小説、「走れメロス」と「人間失格」、勝手な理想と勝手な失望。現実離れという点で両者とも少年っぽい。そんな頃に nostalgia 。
Wednesday, January 31, 2007
Sunday, January 28, 2007
メス豚と日本の関係
"Gunatanamo And The Abuse of Presidential Power" をちょろっちょろっと読んでは寝たり起きたりしてる。とりあえず何も考えない時間を過ごそうというのが、この三連休の方針なのでした。しかし・・・
The marine said Sgt. Lacey had grabbed the detainee's thumbs and bent them backwards and indicated that she grabbed his genitals. The marine also implied that her treatment of that detainee was less harsh than her treatment of others by indicating that he had seen her treatment of other detainees result in detainees curling into a fetal position on the floor and crying in pain. (P. 5-6) 単に変態オンナの下級兵がたまたま尋問してるだけじゃないのか?
In September or October of 2002 FBI agents observed that a canine was used in an aggressive manner to intimidate detainee # 63 and, in November 2002, FBI agents observed detainee #63 after he had been subjected to intense isolation for over three months. During that period, # 63 was totally isolated (with the exception of occasional interrogations) in a cell that was always flooded with light. By late November, the detainee was evidencing behavior consistent with extreme psychological trauma (talking to non-existent people, reporting hearing voices, crouching in a corner of the cell covered with a sheet for hours on end). (P. 6) こういう人を狂わせてアメリカにどういうメリットがあると思っているのだろうか?
A Pentagon investigation confirmed "numerous instances" in which female interrogators, using dye, pretended to flick or spread menstrual blood on prisoners. The technique was intended to interfere with the prisoners' prayer; a Pentagon official familiar with the investigation said, " If a woman touches him prior to prayer, then he's dirty and can't pray." (P. 19) お前はブタか?
As of February 2006, ninety-eight prisoners had died in U.S. custody, and thirty-four of these deaths are being investigated by the military as suspected or confirmed homicides. (P. 19) こうなると、アウシュビッツとどこが違うのかという疑問を持たざるをえない。
Global War on Terror のおかげでアメリカの敵は爆発的に増加したに違いない。国益とか国家の安全とかアメリカの政治家はうるさいけど、思いっきり逆効果ではないか。こんなアホな政策は歴史上他にちょっと思い出せない。人類史アホ政策ランキングのトップ3には確実に入ると思う。
戦時になると狂いがちになるのはどこの国でも同じらしいが、この本でも過去のアメリカの戦時中の三大恥みたいなものを列挙している。
- The internment of Japanese-Americans during World War II
- The prosecutions under the Espionage and Sedition Acts during World War I
- The suspension of the writ of habeas corpus during the Civil War
著者はノースウェスタン大学のロースクールの先生でかつ市民権の弁護士としても活躍する人なので、人権の著しい侵害という点で選んだのかもしれないし、これがアメリカ歴史研究における当たり前の三大恥なのかもしれない。市民権史にもアメリカ史にも無知蒙昧なので、どちらかは分からないが、これらと比べると、GWOT は桁違いに凄まじい失政ではないか。上の三つがたいしたことないわけではないけど、地理的領土的広がり、時間的無制限さ、人権侵害の途方もない規模、国際法システムからの逸脱度、これほどオールラウンドな外交的失政はイチローでもできないだろう。こういうことできるのが新しい帝国だという定義はできるかもしれないが。
米軍の尋問マニュアルみたいなものはとてもまともにできていた。
Field Manual 34-52, Intelligence Interrogation
"Experience indicated that the use of prohibited techniques is not necessary to gain the cooperation of interrogation sources. Use of torture and other illegal methods is a poor technique that yields unreliable results, may damage subsequent collection efforts, and can induce the source to say what he thinks the interrogation wants to hear." (pp 29-30)
"[e]verything the interrogator says and does must be within the limits of the Geneva Conventions, which expressly prohibit torture and coercive interrogations". (p. 30)
"knowing the enermy has abused US and allied PWs [prisoners of war] does not justify using methods of interrogation specifically prohibited by the Geneva Conventions and US policy." (p. 30)
ところが、冷戦中にひそかに別のマニュアル(The KUBARK manual)がCIAや軍の諜報部では使われていた。しかし、使用対象が敵の諜報部員などに限定されている。これがジュネーヴ条約もへったくれもない世界、国際人道法の外側の世界だったのだけど、問題はGuantanamo を代表とするGWOT下に捕らえられた人を収容する施設をアメリカ政府が勝手にジュネーヴ条約適用外にしてしまい、そしてそういうところで行われている尋問がFM 34-52 のようなまともなマニュアルに基づいて行われないことだと、この著者は書いている。で、結局、残酷系マニュアルであるThe KUBARK manual のようなものが基準になってしまう。
これがとんでもないのは、アメリカが署名・批准しているジュネーヴ条約を無視しているという根本的な問題に加えて、尋問の性質がまったく変わってしまったことだかららしい。尋問には二種類の系統がある。一つは、過去についての尋問、もう一つは未来についての尋問。何か法に反することをしたかもしれない人がされる尋問は前者で、そこで権力が乱用されないようにいろんなルールが設定されている(市民権はそこで活躍する)。それが一応我々の住んでいる世界のはずなのだけど、アメリカが今やってるのは後者の方で、そこでThe KUBARK manual のようなものが必要となってくる。「fear-up アプローチ」とか、「pride and ego-down アプローチ」とかあるんだけど、こういう命名を見ると、この人たちはマンガと現実の区別がついていないんじゃないだろうかと思ってしまう。その結果が、女性尋問官が男性ムスリム教徒の収容者の性器を掴んでねじり上げたり、生理の血(に見せかけたもの?)を収容者に塗りたくったりして、お祈りできないようにするということになる。で、それで短期的にその収容者相手にどのような効果があったとしても、長期的にはアメリカという国家全体に破滅的なダメージを与えるだけだということが分からないのだろうか?この本を読んでると、この途方もないアホさかげんに唖然とし続けるしかないのだけど、恐ろしいのはアメリカのもっとも忠実な同盟国の日本が被るダメージだ。今、アメリカにちょっと頭を冷やしてもらわないと一番困るのは日本のはずだけど、日本ではいったいどうなってるんだろう?
それにしても、政府がとんでもない方向へ向うというだけでは、国家が狂うということの具体的なイメージがわかないのだけど、こういう(↓)アカデミズムの発言を読むと、少しイメージが膨らんでくる。
He later suggested that, in the so-called ticking time bomb scenario, interrogators should be allowed to insert a sterilized needle under a prisoner's fingernails.
尋問官は収容者の爪の裏に針を差し込むことを許可されるべきだ???
人生のある時期に一瞬でも法の精神に触れたような人なら絶対に口にするなんて想像できないような言葉、簡単に言えば狂人の言葉としか思えないのだが、これを言ったのがなんとハーバード大学ロースクールの教授なのだ(Alan Dershowitz)。
The marine said Sgt. Lacey had grabbed the detainee's thumbs and bent them backwards and indicated that she grabbed his genitals. The marine also implied that her treatment of that detainee was less harsh than her treatment of others by indicating that he had seen her treatment of other detainees result in detainees curling into a fetal position on the floor and crying in pain. (P. 5-6) 単に変態オンナの下級兵がたまたま尋問してるだけじゃないのか?
In September or October of 2002 FBI agents observed that a canine was used in an aggressive manner to intimidate detainee # 63 and, in November 2002, FBI agents observed detainee #63 after he had been subjected to intense isolation for over three months. During that period, # 63 was totally isolated (with the exception of occasional interrogations) in a cell that was always flooded with light. By late November, the detainee was evidencing behavior consistent with extreme psychological trauma (talking to non-existent people, reporting hearing voices, crouching in a corner of the cell covered with a sheet for hours on end). (P. 6) こういう人を狂わせてアメリカにどういうメリットがあると思っているのだろうか?
A Pentagon investigation confirmed "numerous instances" in which female interrogators, using dye, pretended to flick or spread menstrual blood on prisoners. The technique was intended to interfere with the prisoners' prayer; a Pentagon official familiar with the investigation said, " If a woman touches him prior to prayer, then he's dirty and can't pray." (P. 19) お前はブタか?
As of February 2006, ninety-eight prisoners had died in U.S. custody, and thirty-four of these deaths are being investigated by the military as suspected or confirmed homicides. (P. 19) こうなると、アウシュビッツとどこが違うのかという疑問を持たざるをえない。
Global War on Terror のおかげでアメリカの敵は爆発的に増加したに違いない。国益とか国家の安全とかアメリカの政治家はうるさいけど、思いっきり逆効果ではないか。こんなアホな政策は歴史上他にちょっと思い出せない。人類史アホ政策ランキングのトップ3には確実に入ると思う。
戦時になると狂いがちになるのはどこの国でも同じらしいが、この本でも過去のアメリカの戦時中の三大恥みたいなものを列挙している。
- The internment of Japanese-Americans during World War II
- The prosecutions under the Espionage and Sedition Acts during World War I
- The suspension of the writ of habeas corpus during the Civil War
著者はノースウェスタン大学のロースクールの先生でかつ市民権の弁護士としても活躍する人なので、人権の著しい侵害という点で選んだのかもしれないし、これがアメリカ歴史研究における当たり前の三大恥なのかもしれない。市民権史にもアメリカ史にも無知蒙昧なので、どちらかは分からないが、これらと比べると、GWOT は桁違いに凄まじい失政ではないか。上の三つがたいしたことないわけではないけど、地理的領土的広がり、時間的無制限さ、人権侵害の途方もない規模、国際法システムからの逸脱度、これほどオールラウンドな外交的失政はイチローでもできないだろう。こういうことできるのが新しい帝国だという定義はできるかもしれないが。
米軍の尋問マニュアルみたいなものはとてもまともにできていた。
Field Manual 34-52, Intelligence Interrogation
"Experience indicated that the use of prohibited techniques is not necessary to gain the cooperation of interrogation sources. Use of torture and other illegal methods is a poor technique that yields unreliable results, may damage subsequent collection efforts, and can induce the source to say what he thinks the interrogation wants to hear." (pp 29-30)
"[e]verything the interrogator says and does must be within the limits of the Geneva Conventions, which expressly prohibit torture and coercive interrogations". (p. 30)
"knowing the enermy has abused US and allied PWs [prisoners of war] does not justify using methods of interrogation specifically prohibited by the Geneva Conventions and US policy." (p. 30)
ところが、冷戦中にひそかに別のマニュアル(The KUBARK manual)がCIAや軍の諜報部では使われていた。しかし、使用対象が敵の諜報部員などに限定されている。これがジュネーヴ条約もへったくれもない世界、国際人道法の外側の世界だったのだけど、問題はGuantanamo を代表とするGWOT下に捕らえられた人を収容する施設をアメリカ政府が勝手にジュネーヴ条約適用外にしてしまい、そしてそういうところで行われている尋問がFM 34-52 のようなまともなマニュアルに基づいて行われないことだと、この著者は書いている。で、結局、残酷系マニュアルであるThe KUBARK manual のようなものが基準になってしまう。
これがとんでもないのは、アメリカが署名・批准しているジュネーヴ条約を無視しているという根本的な問題に加えて、尋問の性質がまったく変わってしまったことだかららしい。尋問には二種類の系統がある。一つは、過去についての尋問、もう一つは未来についての尋問。何か法に反することをしたかもしれない人がされる尋問は前者で、そこで権力が乱用されないようにいろんなルールが設定されている(市民権はそこで活躍する)。それが一応我々の住んでいる世界のはずなのだけど、アメリカが今やってるのは後者の方で、そこでThe KUBARK manual のようなものが必要となってくる。「fear-up アプローチ」とか、「pride and ego-down アプローチ」とかあるんだけど、こういう命名を見ると、この人たちはマンガと現実の区別がついていないんじゃないだろうかと思ってしまう。その結果が、女性尋問官が男性ムスリム教徒の収容者の性器を掴んでねじり上げたり、生理の血(に見せかけたもの?)を収容者に塗りたくったりして、お祈りできないようにするということになる。で、それで短期的にその収容者相手にどのような効果があったとしても、長期的にはアメリカという国家全体に破滅的なダメージを与えるだけだということが分からないのだろうか?この本を読んでると、この途方もないアホさかげんに唖然とし続けるしかないのだけど、恐ろしいのはアメリカのもっとも忠実な同盟国の日本が被るダメージだ。今、アメリカにちょっと頭を冷やしてもらわないと一番困るのは日本のはずだけど、日本ではいったいどうなってるんだろう?
それにしても、政府がとんでもない方向へ向うというだけでは、国家が狂うということの具体的なイメージがわかないのだけど、こういう(↓)アカデミズムの発言を読むと、少しイメージが膨らんでくる。
He later suggested that, in the so-called ticking time bomb scenario, interrogators should be allowed to insert a sterilized needle under a prisoner's fingernails.
尋問官は収容者の爪の裏に針を差し込むことを許可されるべきだ???
人生のある時期に一瞬でも法の精神に触れたような人なら絶対に口にするなんて想像できないような言葉、簡単に言えば狂人の言葉としか思えないのだが、これを言ったのがなんとハーバード大学ロースクールの教授なのだ(Alan Dershowitz)。
Hearts and Minds
もう Foresight の連載は書いていないのだけど、今年に入って一つだけ書いた。もう出版済みなので、ここにコピーする。バラバラに散逸しているいろんな原稿をいつかちゃんと自分のHPで整理しようと思いつつ、もう3年になる。そのまま永久にウェブ宇宙のゴミと化す可能性も捨てきれない。その場しのぎで、こういうところにコピーしておくのもゴミ化の一貫かもしれない。
アフガニスタンに住んでいる人なら、hearts and minds というスローガンはしょっちゅう聞いているだろう。日本語にするにはどうするかちょっと迷ったが、こういうのは辞書的に考えてもしょうがない。メロディを選ぶようにパッと浮かんだ言葉を使うことにした。ギターを弾いていた十代の頃を思い出した。
ユカリ嬢がひそかになんか書いていた。「アフガニスタンの武装解除、治安維持、復興開発に関わって」というタイトル。
アフガニスタンとユカリ嬢に興味のある人は、
下の記事を飛ばしてここここ。
----------------------------------------------------------------------------------------------
-アフガン人の「心と気持ち」をつかめない国際社会-Foresight 2007年2月号
【カブール発】アフガニスタンの国際治安支援軍(I S A F)は年頭に、子ども達がおもちゃのピストルを持って巡回中の軍用車の近くで遊ばないようにして欲しいという声明を出した。
I S A F の言いたいことはよく分かる。国連職員はI S A F の車に近づき過ぎないようにと日頃から厳重に通告されている。不注意にも高速でI S A F の車に近づき、彼らの攻撃でこっぱみじんに破壊された国連車もあるのだ。間違って子どもを射殺したくないとI S A F が考えるのはもっともだろう。しかし、子ども達が軍用車の後を追うわけではなく、子どもの遊んでいる所へ軍がやってくるのだ。子ども達がおもちゃのピストルで自由に遊べない国、そんなアフガニスタンのことを、年末年始に一時帰国していた私は三歳の息子のおもちゃのピストルが素っ頓狂な音を出して光っているのを見ながら思いだしていた。
I S A F は、去年最大の失敗の一つは一般市民を殺し過ぎたことだったと説明した。去年一年間にアフガニスタンの戦闘で亡くなった約四千人のうち、約千人が一般市民であった。実際に戦闘に参加しているアフガン人は全人口三千百万人の〇・一%程度に過ぎないことを考えると、戦死者に占める一般市民の割合、四人に一人は異様に大きい。
四千人という戦死者数は前年の二倍である。米同盟軍の侵攻前には存在しなかった自爆攻撃の数は去年一年間で約百件。アフガニスタンの治安状況は確実に悪化している。そして、外国からやってきた軍は子どものおもちゃにまで過剰反応を示す。
タリバンは復活した、というのはこのような状況のことを言っている。アフガニスタン全土の約半分をタリバンが事実上支配していると考える人もいる。アフガン人のほんの一部に過ぎないタリバンが、軍事的に圧倒的優位にある先進国の軍隊相手にこれほど広範囲で対抗するためには、一般人による支持、少なくとも黙認がなければ難しいだろう。
米軍及びN A T O 軍はしばしばアフガン人の「心と気持ち」をつかむという方針を語る。普通のアフガン人の「心と気持ち」をつかまなければこの戦争には勝てないと、彼らも考えているからだろう。
いまだにアフガニスタンでは四人に一人の子どもが五歳までに死ぬ。三百五十万人が恒常的に飢餓状態、全人口の七割が栄養失調、飲料水にアクセスがあるのは人口の四分の一以下。十歳に満たない女子が食物と交換に嫁に出される、つまり売られるような事態が続く。
二〇〇二年から五年間に国際社会がアフガニスタンの復興支援に費やした資金は約八千五百億円にのぼる。しかし、同時期に米同盟軍がアフガニスタンで使った軍事費は、その十倍を超える九兆五千億円以上だと推定されている。
しかも、米兵の行動の評判は著しく悪い。完全武装の米兵が村の民家の戸を蹴り飛ばして、女・子どもまで引きずり出す、アフガン女性のボディーサーチを男の米兵がする。アフガン文化では耐え難い恥辱を与えているのだ。
国際社会はアフガニスタンを復興開発すると約束したが、何もしてくれなかった、けし畑を破壊して、その補償も与えてくれない、また裏切られたと思うアフガン人の感覚は事実からそれほど遠くない。国際援助組織もアフガン政府役人も見たことがないという村がいくらでもあるのだ。
そんな僻村にタリバンは巧妙に食料や水を配り、犯罪を取り締まり、日当五ドル以上の高給で若者を雇う。米兵による侮辱的行為や、一般人犠牲者に関する情報を、ラジオ、ウェブサイト、タブロイド紙、D V D、カセットテープで、あるいは電気のない村には口コミを利用して広く流す。字の読めない人々の間にも外国人がアフガン一般市民を殺したニュースが伝わるのだ。
米軍はオサマ・ビンラディンについての情報提供者に賞金を払うとダリ語で書いたマッチ箱をパシュトゥー語地域の南部・東部で空からばらまく。マッチ箱には連絡先として、アメリカの電話番号とeメールアドレスが載っているが、そんな村には電話も電気もない。援助は届かず、一般市民が殺されるという事実だけがメッセージとして残る。
タリバン復活の裏には、アフガン人の「心と気持ち」をつかめない国際社会、つまり我々がいる。
----------------------------------------------------------------------------
* * *
アフガニスタンに住んでいる人なら、hearts and minds というスローガンはしょっちゅう聞いているだろう。日本語にするにはどうするかちょっと迷ったが、こういうのは辞書的に考えてもしょうがない。メロディを選ぶようにパッと浮かんだ言葉を使うことにした。ギターを弾いていた十代の頃を思い出した。
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ユカリ嬢がひそかになんか書いていた。「アフガニスタンの武装解除、治安維持、復興開発に関わって」というタイトル。
アフガニスタンとユカリ嬢に興味のある人は、
下の記事を飛ばしてここここ。
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-アフガン人の「心と気持ち」をつかめない国際社会-Foresight 2007年2月号
【カブール発】アフガニスタンの国際治安支援軍(I S A F)は年頭に、子ども達がおもちゃのピストルを持って巡回中の軍用車の近くで遊ばないようにして欲しいという声明を出した。
I S A F の言いたいことはよく分かる。国連職員はI S A F の車に近づき過ぎないようにと日頃から厳重に通告されている。不注意にも高速でI S A F の車に近づき、彼らの攻撃でこっぱみじんに破壊された国連車もあるのだ。間違って子どもを射殺したくないとI S A F が考えるのはもっともだろう。しかし、子ども達が軍用車の後を追うわけではなく、子どもの遊んでいる所へ軍がやってくるのだ。子ども達がおもちゃのピストルで自由に遊べない国、そんなアフガニスタンのことを、年末年始に一時帰国していた私は三歳の息子のおもちゃのピストルが素っ頓狂な音を出して光っているのを見ながら思いだしていた。
I S A F は、去年最大の失敗の一つは一般市民を殺し過ぎたことだったと説明した。去年一年間にアフガニスタンの戦闘で亡くなった約四千人のうち、約千人が一般市民であった。実際に戦闘に参加しているアフガン人は全人口三千百万人の〇・一%程度に過ぎないことを考えると、戦死者に占める一般市民の割合、四人に一人は異様に大きい。
四千人という戦死者数は前年の二倍である。米同盟軍の侵攻前には存在しなかった自爆攻撃の数は去年一年間で約百件。アフガニスタンの治安状況は確実に悪化している。そして、外国からやってきた軍は子どものおもちゃにまで過剰反応を示す。
タリバンは復活した、というのはこのような状況のことを言っている。アフガニスタン全土の約半分をタリバンが事実上支配していると考える人もいる。アフガン人のほんの一部に過ぎないタリバンが、軍事的に圧倒的優位にある先進国の軍隊相手にこれほど広範囲で対抗するためには、一般人による支持、少なくとも黙認がなければ難しいだろう。
米軍及びN A T O 軍はしばしばアフガン人の「心と気持ち」をつかむという方針を語る。普通のアフガン人の「心と気持ち」をつかまなければこの戦争には勝てないと、彼らも考えているからだろう。
いまだにアフガニスタンでは四人に一人の子どもが五歳までに死ぬ。三百五十万人が恒常的に飢餓状態、全人口の七割が栄養失調、飲料水にアクセスがあるのは人口の四分の一以下。十歳に満たない女子が食物と交換に嫁に出される、つまり売られるような事態が続く。
二〇〇二年から五年間に国際社会がアフガニスタンの復興支援に費やした資金は約八千五百億円にのぼる。しかし、同時期に米同盟軍がアフガニスタンで使った軍事費は、その十倍を超える九兆五千億円以上だと推定されている。
しかも、米兵の行動の評判は著しく悪い。完全武装の米兵が村の民家の戸を蹴り飛ばして、女・子どもまで引きずり出す、アフガン女性のボディーサーチを男の米兵がする。アフガン文化では耐え難い恥辱を与えているのだ。
国際社会はアフガニスタンを復興開発すると約束したが、何もしてくれなかった、けし畑を破壊して、その補償も与えてくれない、また裏切られたと思うアフガン人の感覚は事実からそれほど遠くない。国際援助組織もアフガン政府役人も見たことがないという村がいくらでもあるのだ。
そんな僻村にタリバンは巧妙に食料や水を配り、犯罪を取り締まり、日当五ドル以上の高給で若者を雇う。米兵による侮辱的行為や、一般人犠牲者に関する情報を、ラジオ、ウェブサイト、タブロイド紙、D V D、カセットテープで、あるいは電気のない村には口コミを利用して広く流す。字の読めない人々の間にも外国人がアフガン一般市民を殺したニュースが伝わるのだ。
米軍はオサマ・ビンラディンについての情報提供者に賞金を払うとダリ語で書いたマッチ箱をパシュトゥー語地域の南部・東部で空からばらまく。マッチ箱には連絡先として、アメリカの電話番号とeメールアドレスが載っているが、そんな村には電話も電気もない。援助は届かず、一般市民が殺されるという事実だけがメッセージとして残る。
タリバン復活の裏には、アフガン人の「心と気持ち」をつかめない国際社会、つまり我々がいる。
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Saturday, January 27, 2007
宇宙のゴミ
こんな時じゃないとできないことをやろうと思って、あちこちに作ってしまったブログをすべて閉鎖しようとしたら、システムが変わってログインが簡単にできないとか、その他いろいろな理由でなかなかはかどらない。IDとかパスワードをもう一度取り寄せたりしたが、その後にまた別の手続きが待っている。そんなに厳重にしていったい何を守るんだろう。個人情報?ブログに登録するような情報が漏れたからって騒ぐ人がいるんだろうか?そんなもの全世界にくれてやるよ、って思ってるのは僕一人なのだろうか。
こんなことに時間を費やすのは、アホらしいのでほったらかしにすることにした。
こうやってウェブ空間には凄まじい勢いでゴミが増加しているんだろう。小さい頃に聞いた、古い人口衛星がゴミになって宇宙に溜まっていく話を思い出した。
朝食を頼んだら、ジュースを持ってこなかった。「今ないので明日持ってくる」と言われた。面白すぎて怒るのを忘れて一人爆笑してしまった。そのパキスタン人も何か褒められたとでも思った様子でニコニコしている。この国は永久に何も変わらず、ある意味で永久に幸せなのではないだろうか。
日本の食卓で、「ちょっと醤油とって」、「うん、明日渡す」なんて会話をしてみたいものだと思った。
コインランドリーで「マリ・クレール」を読んで涙ぐんでいたゴトー・ケンジが、またアフガニスタンの企画をたくらんでいる。世界標準でやって欲しいものだ。日本語世界(活字・ウェブ・映像)で日本に知らされてるアフガニスタンを見ると、まったく知られてない方がましだったのではないかとよく思う。これだけはアフガン人に隠し続けないと。知ってしまったら怒り狂うだろう。
音楽を聴きながら本を読みながら、かつつけっぱなしにしていたテレビでリチャード・ギアの映画「Intersection」(放題「わかれ路」)をやっていたので、それもチラチラと見ていたら、どうも途中で気になり始めて、最後まで見てしまった。ストーリーは三分の一くらいしか分からなかったけど、これはきっと同じような悩みに遭遇した人たちが寄ってたかって作ったんじゃないだろうかなんて思った。
「妻」と「愛人」の間で揺れ動き、そして結局死んでしまう「男」の映画と言ってしまえば、もう終わりなんだけど、出演している俳優も女優もみんな微妙な感情をうまく出し過ぎ。演出する人たちもとても微妙にやってるんだろう。全員がこの主題をよく理解していないとこんなふうには作れないだろうと思う。
価値基準とか善悪の基準なんて無限にあるとしても、とりあえず一つ採用してそれぞれの社会制度はできてる。完全な無秩序と混沌を生みたくなければそうするしかないという知恵なんだろうけど、それを受け入れたからといって、人間の中にはそれですべて納まりきれないものがあるのも事実だから、必ず制度と人間の間にギャップができる。
人間はずっとそれに気づいているから、古代ギリシャから現代まで何度も何度も繰り返し、それが神話や文学の主題になって登場するのだろう。ウェブでこの映画を検索してみると、「妻」を悪く思う人も、「愛人」を悪く思う人も、「男」を悪く思う人もいるのがよく分かる。しかし、根本的な問題は社会制度(例えば、近代的婚姻制度)と人間の間にあるずれなのだから、誰かを悪く思ってもしょうがない。結局、「妻」、「愛人」、「男」の三者に同情してしまった。
こんなことに時間を費やすのは、アホらしいのでほったらかしにすることにした。
こうやってウェブ空間には凄まじい勢いでゴミが増加しているんだろう。小さい頃に聞いた、古い人口衛星がゴミになって宇宙に溜まっていく話を思い出した。
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朝食を頼んだら、ジュースを持ってこなかった。「今ないので明日持ってくる」と言われた。面白すぎて怒るのを忘れて一人爆笑してしまった。そのパキスタン人も何か褒められたとでも思った様子でニコニコしている。この国は永久に何も変わらず、ある意味で永久に幸せなのではないだろうか。
日本の食卓で、「ちょっと醤油とって」、「うん、明日渡す」なんて会話をしてみたいものだと思った。
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コインランドリーで「マリ・クレール」を読んで涙ぐんでいたゴトー・ケンジが、またアフガニスタンの企画をたくらんでいる。世界標準でやって欲しいものだ。日本語世界(活字・ウェブ・映像)で日本に知らされてるアフガニスタンを見ると、まったく知られてない方がましだったのではないかとよく思う。これだけはアフガン人に隠し続けないと。知ってしまったら怒り狂うだろう。
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音楽を聴きながら本を読みながら、かつつけっぱなしにしていたテレビでリチャード・ギアの映画「Intersection」(放題「わかれ路」)をやっていたので、それもチラチラと見ていたら、どうも途中で気になり始めて、最後まで見てしまった。ストーリーは三分の一くらいしか分からなかったけど、これはきっと同じような悩みに遭遇した人たちが寄ってたかって作ったんじゃないだろうかなんて思った。
「妻」と「愛人」の間で揺れ動き、そして結局死んでしまう「男」の映画と言ってしまえば、もう終わりなんだけど、出演している俳優も女優もみんな微妙な感情をうまく出し過ぎ。演出する人たちもとても微妙にやってるんだろう。全員がこの主題をよく理解していないとこんなふうには作れないだろうと思う。
価値基準とか善悪の基準なんて無限にあるとしても、とりあえず一つ採用してそれぞれの社会制度はできてる。完全な無秩序と混沌を生みたくなければそうするしかないという知恵なんだろうけど、それを受け入れたからといって、人間の中にはそれですべて納まりきれないものがあるのも事実だから、必ず制度と人間の間にギャップができる。
人間はずっとそれに気づいているから、古代ギリシャから現代まで何度も何度も繰り返し、それが神話や文学の主題になって登場するのだろう。ウェブでこの映画を検索してみると、「妻」を悪く思う人も、「愛人」を悪く思う人も、「男」を悪く思う人もいるのがよく分かる。しかし、根本的な問題は社会制度(例えば、近代的婚姻制度)と人間の間にあるずれなのだから、誰かを悪く思ってもしょうがない。結局、「妻」、「愛人」、「男」の三者に同情してしまった。
Thursday, January 25, 2007
yoshilog 2.0
昨日、イスラマバードに来た。
6週間に一回の休暇では間に合わず、あまりに頭がおかしくなる人が多いからかどうか知らないけど、週末国外で過ごすことがいつの間にか許可されるように なっていた。木曜日の午後の便でカブールから出て、日曜日の午前の便でカブールに戻れば、有給休暇はまったく使わなくていいという解釈を誰かが捻出したの だ。その結果、お金に余裕のある人なら、毎週三泊はイスラマバード、四泊はカブールという生活が可能になった。そういう人が実際いる。
来週の日曜日がアシュラ祭で休日になったので、金・土・日と三連休になった。ぼさっとしていて、何も計画を立てていなかったのだけど、木曜日になって突然 イスラマバードに行くことにした。少しは暖かいだろうというのがかなり大きな理由ではあった。先週引いた風邪がなかなかすっきりしなくて、鬱陶しくてしょ うがなかった。
到着した日に、日本のNGOや援助機関の人たちと夕食を食べた。外国で知らない日本人に会うと、たいていろくなことがないので、かなり緊張していたのだけ ど、みんな若くて爽やかでびっくりした。改めて日本は人の素材大国だと思った。いつの時代も悪いのは年寄りに決まってる。
辛気臭いこと言って得意になってる阿呆オヤジや、助平なこと言って一人で受けてる勘違いオヤジの数々が脳裏をかすめると、それが自分とオーバーラップし て、どうも緊張してしまう。というわけで、まるで20年前に戻ったようにバーボンのソーダ割りをがぶ飲みしてしまった。ふと気がつくと、誰もほとんど飲ん でなかった。マンガならここで顔に斜線がいっぱい入って、暗い目になって、あぶら汗がたらたら流れて、絶望に陥る場面だ。
今日は、Radio City に行った。
The Best of Alice Cooper なんて嬉しいCDがあった。"Schools Out" が入ってるのを確かめて買った。これを中学生の時に聴いていなかったら、もっとちゃんと学校に行ってたかもしれない(?)。
Premium Gold Collection Al Stewart なんてのも発見。いったい誰がどんな基準でこの品揃えの選択をしてるのか興味深い。
The Best of Black Sabbath。懐かしさに震えながら、お金を払った。
この3枚に比べると、まったく思い入れがないのだけど、垂れ流し系のCD(buddha-bar みたいな)も3枚買った。
それから、Saeed Book Bank に行って、”Guantanamo And the Abuse of Presidential Power", Joseph Marguilies. を買った。ナチの強制収用所と同時代に、それについての本があったりしたら、世界はかなり変わっていただろう、と思ってしまう。が、これは、そんな本なの だけど、どうも世界は変わりそうな気配がない。
今日は、イスラマバードのマリオット・ホテルでテロがあった。自爆攻撃。すぐ近くなのに大騒ぎに気がつかなかった。テレビで知った。
(注)旧yoshilog 2.0 の初日。
6週間に一回の休暇では間に合わず、あまりに頭がおかしくなる人が多いからかどうか知らないけど、週末国外で過ごすことがいつの間にか許可されるように なっていた。木曜日の午後の便でカブールから出て、日曜日の午前の便でカブールに戻れば、有給休暇はまったく使わなくていいという解釈を誰かが捻出したの だ。その結果、お金に余裕のある人なら、毎週三泊はイスラマバード、四泊はカブールという生活が可能になった。そういう人が実際いる。
来週の日曜日がアシュラ祭で休日になったので、金・土・日と三連休になった。ぼさっとしていて、何も計画を立てていなかったのだけど、木曜日になって突然 イスラマバードに行くことにした。少しは暖かいだろうというのがかなり大きな理由ではあった。先週引いた風邪がなかなかすっきりしなくて、鬱陶しくてしょ うがなかった。
到着した日に、日本のNGOや援助機関の人たちと夕食を食べた。外国で知らない日本人に会うと、たいていろくなことがないので、かなり緊張していたのだけ ど、みんな若くて爽やかでびっくりした。改めて日本は人の素材大国だと思った。いつの時代も悪いのは年寄りに決まってる。
辛気臭いこと言って得意になってる阿呆オヤジや、助平なこと言って一人で受けてる勘違いオヤジの数々が脳裏をかすめると、それが自分とオーバーラップし て、どうも緊張してしまう。というわけで、まるで20年前に戻ったようにバーボンのソーダ割りをがぶ飲みしてしまった。ふと気がつくと、誰もほとんど飲ん でなかった。マンガならここで顔に斜線がいっぱい入って、暗い目になって、あぶら汗がたらたら流れて、絶望に陥る場面だ。
今日は、Radio City に行った。
The Best of Alice Cooper なんて嬉しいCDがあった。"Schools Out" が入ってるのを確かめて買った。これを中学生の時に聴いていなかったら、もっとちゃんと学校に行ってたかもしれない(?)。
Premium Gold Collection Al Stewart なんてのも発見。いったい誰がどんな基準でこの品揃えの選択をしてるのか興味深い。
The Best of Black Sabbath。懐かしさに震えながら、お金を払った。
この3枚に比べると、まったく思い入れがないのだけど、垂れ流し系のCD(buddha-bar みたいな)も3枚買った。
それから、Saeed Book Bank に行って、”Guantanamo And the Abuse of Presidential Power", Joseph Marguilies. を買った。ナチの強制収用所と同時代に、それについての本があったりしたら、世界はかなり変わっていただろう、と思ってしまう。が、これは、そんな本なの だけど、どうも世界は変わりそうな気配がない。
今日は、イスラマバードのマリオット・ホテルでテロがあった。自爆攻撃。すぐ近くなのに大騒ぎに気がつかなかった。テレビで知った。
(注)旧yoshilog 2.0 の初日。
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