Sunday, January 28, 2007

Hearts and Minds

もう Foresight の連載は書いていないのだけど、今年に入って一つだけ書いた。もう出版済みなので、ここにコピーする。バラバラに散逸しているいろんな原稿をいつかちゃんと自分のHPで整理しようと思いつつ、もう3年になる。そのまま永久にウェブ宇宙のゴミと化す可能性も捨てきれない。その場しのぎで、こういうところにコピーしておくのもゴミ化の一貫かもしれない。

* * *

アフガニスタンに住んでいる人なら、hearts and minds というスローガンはしょっちゅう聞いているだろう。日本語にするにはどうするかちょっと迷ったが、こういうのは辞書的に考えてもしょうがない。メロディを選ぶようにパッと浮かんだ言葉を使うことにした。ギターを弾いていた十代の頃を思い出した。

* * *

ユカリ嬢がひそかになんか書いていた。「アフガニスタンの武装解除、治安維持、復興開発に関わって」というタイトル。
アフガニスタンとユカリ嬢に興味のある人は、
下の記事を飛ばしてここここ。

----------------------------------------------------------------------------------------------
-アフガン人の「心と気持ち」をつかめない国際社会-Foresight 2007年2月号

【カブール発】アフガニスタンの国際治安支援軍(I S A F)は年頭に、子ども達がおもちゃのピストルを持って巡回中の軍用車の近くで遊ばないようにして欲しいという声明を出した。

I S A F の言いたいことはよく分かる。国連職員はI S A F の車に近づき過ぎないようにと日頃から厳重に通告されている。不注意にも高速でI S A F の車に近づき、彼らの攻撃でこっぱみじんに破壊された国連車もあるのだ。間違って子どもを射殺したくないとI S A F が考えるのはもっともだろう。しかし、子ども達が軍用車の後を追うわけではなく、子どもの遊んでいる所へ軍がやってくるのだ。子ども達がおもちゃのピストルで自由に遊べない国、そんなアフガニスタンのことを、年末年始に一時帰国していた私は三歳の息子のおもちゃのピストルが素っ頓狂な音を出して光っているのを見ながら思いだしていた。

I S A F は、去年最大の失敗の一つは一般市民を殺し過ぎたことだったと説明した。去年一年間にアフガニスタンの戦闘で亡くなった約四千人のうち、約千人が一般市民であった。実際に戦闘に参加しているアフガン人は全人口三千百万人の〇・一%程度に過ぎないことを考えると、戦死者に占める一般市民の割合、四人に一人は異様に大きい。

四千人という戦死者数は前年の二倍である。米同盟軍の侵攻前には存在しなかった自爆攻撃の数は去年一年間で約百件。アフガニスタンの治安状況は確実に悪化している。そして、外国からやってきた軍は子どものおもちゃにまで過剰反応を示す。

タリバンは復活した、というのはこのような状況のことを言っている。アフガニスタン全土の約半分をタリバンが事実上支配していると考える人もいる。アフガン人のほんの一部に過ぎないタリバンが、軍事的に圧倒的優位にある先進国の軍隊相手にこれほど広範囲で対抗するためには、一般人による支持、少なくとも黙認がなければ難しいだろう。

米軍及びN A T O 軍はしばしばアフガン人の「心と気持ち」をつかむという方針を語る。普通のアフガン人の「心と気持ち」をつかまなければこの戦争には勝てないと、彼らも考えているからだろう。

いまだにアフガニスタンでは四人に一人の子どもが五歳までに死ぬ。三百五十万人が恒常的に飢餓状態、全人口の七割が栄養失調、飲料水にアクセスがあるのは人口の四分の一以下。十歳に満たない女子が食物と交換に嫁に出される、つまり売られるような事態が続く。

二〇〇二年から五年間に国際社会がアフガニスタンの復興支援に費やした資金は約八千五百億円にのぼる。しかし、同時期に米同盟軍がアフガニスタンで使った軍事費は、その十倍を超える九兆五千億円以上だと推定されている。

しかも、米兵の行動の評判は著しく悪い。完全武装の米兵が村の民家の戸を蹴り飛ばして、女・子どもまで引きずり出す、アフガン女性のボディーサーチを男の米兵がする。アフガン文化では耐え難い恥辱を与えているのだ。

国際社会はアフガニスタンを復興開発すると約束したが、何もしてくれなかった、けし畑を破壊して、その補償も与えてくれない、また裏切られたと思うアフガン人の感覚は事実からそれほど遠くない。国際援助組織もアフガン政府役人も見たことがないという村がいくらでもあるのだ。

そんな僻村にタリバンは巧妙に食料や水を配り、犯罪を取り締まり、日当五ドル以上の高給で若者を雇う。米兵による侮辱的行為や、一般人犠牲者に関する情報を、ラジオ、ウェブサイト、タブロイド紙、D V D、カセットテープで、あるいは電気のない村には口コミを利用して広く流す。字の読めない人々の間にも外国人がアフガン一般市民を殺したニュースが伝わるのだ。

米軍はオサマ・ビンラディンについての情報提供者に賞金を払うとダリ語で書いたマッチ箱をパシュトゥー語地域の南部・東部で空からばらまく。マッチ箱には連絡先として、アメリカの電話番号とeメールアドレスが載っているが、そんな村には電話も電気もない。援助は届かず、一般市民が殺されるという事実だけがメッセージとして残る。

タリバン復活の裏には、アフガン人の「心と気持ち」をつかめない国際社会、つまり我々がいる。
----------------------------------------------------------------------------

No comments: