Wednesday, January 31, 2007

Unreal

アリス・クーパーには驚いた。
一瞬のメロディ・ラインで意味もなく目頭が熱くなるような、そんな曲が出てくる。えーっ?これ、アリス・クーパー?って何度かi-Pod の小窓で確かめてしまった。
アリス・クーパーがきれいなコーラスしてどうするんだ、ビージーズじゃないんだから。
アリス・クーパーというのは、おどろおどろしいメークをして、アメリカ版ホラー系グラムロックの先頭を走って、ステージにニシキヘビを持ってきて演出したりして、演奏というより爆発音をバックにしてうるさくガラガラにかれた声で怒鳴るように歌う、それが35年前に僕が持っていたイメージだった。

それが、生ギターにピアノにおまけにストリングスまで入って、きれいな、きれいなコーラスが流れてきて、よっ、好青年!みたいなアリス・クーパーの歌声が次から次に流れてくるではないか。
しかし、よく考えれば、僕が35年前に聞いていたのは、シングル盤に入っているSchool's Out と Elected だけだった。そして、あとは音ではなく雑誌を賑わす彼の写真だけがアリス・クーパーのイメージを形成するすべてだった。でも、世界中の少年たちも当時同じように思っていたのではないだろうか。

突然、サド侯爵を思い出した。サド侯爵は確かに言葉的には元祖SMだけど、彼は恐ろしく美しい小説を書いている。心も姿も美しい女性を作ってしまうサド侯爵。現代で言えばマンガ的なほど美しくて、文学にはならんってことなんだろうと思うけど、そういうサド作品を読んで初めて、世に知られている方の、徹底的に汚く、女性を嫌悪するサド侯爵の作品が腑に落ちたことを思い出した。空想の中にだけ住んでいた女性が、現実の女性によって裏切られるという儀式をすべての男の子達は通過していくけど、サドさんはそれに抵抗したか失敗したかで、死ぬまで現実に抵抗し続けたように思う。
僕の頭の中では、太宰治はサド侯爵に似ている。あり得ない美しい心の女性が登場するサド小説と、汚物まみれの女性を汚物よりも蔑むサド小説、「走れメロス」と「人間失格」、勝手な理想と勝手な失望。現実離れという点で両者とも少年っぽい。そんな頃に nostalgia 。

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