Friday, June 23, 2006

囁く声

今ネットは、日本一次リーグ敗退の戦犯追求でかなり荒れていますが、最大の戦犯は日本そのものでしょう。もう国力の次元で違うとしか思えない。野球は強いとか、柔道はまだいけるとか、モノ作りはちょっとましとか言ったって、だいたい何やっても弱いんだから。

日本には、ロナウジーニョやネドベドみたいな、ずば抜けた天才がいるわけでもないし、アメリカやオーストラリアのように歩兵部隊が着実に前進するみたいな 組織力もないし、今回の参加国の中で一番ヘタか一番弱いかは知らんけど、相手に一番脅威を感じさせないチームであったのは確実だと思う。

アメリカの歩兵部隊に突撃されて、イマジネーションの腐ってしまったイタリアだったけど、チェコ戦では、まさに華麗に舞い続けるネドベドを抑えるために、 イタリアの才能ありまくりのスター選手たちが一致団結して組織防衛に入っている姿は素晴らしかった。日頃はどれだけイタリアのスターとしてちやほやされて いても、敵の大将ネドベドはとんでもない奴だという意識が伊チーム内で共有されて、古代ローマ軍のように隊列を組みなおして戦うって気概がプロだなあ。そ して、結局勝つわけだから、カエサルが見たら喜ぶだろうな。関係ないか。

ネドベドの姿はほんとに美しかった。彼の疾走する姿から、彼のタッチしたボールから才能がほとばしりでていた。でも、その彼の姿が古代ローマ歩兵軍団に阻 止され続けて、だんだん哀愁を帯び始める。元々それぞれが才能ある歩兵なのだから、ネドベドの敵は史上最強の歩兵軍団なのだ。そして、歩兵に偽装したイタ リアの天才たちは一瞬の隙を逃さず、ネドベドの背後を急襲したのであった。

ネドベドは一次リーグで消えてしまった。とてもつもない天才には哀愁が似合う。神話に出てくる英雄のようなプレーヤーだ。

こんなゲームを見ると、日本がワールド・カップに出ていいのかって思う。一国だけなんか違うことやってるように見えてしょうがない。同じアジア圏の、韓国 だって、サウジアラビアだってすごい迫力で戦ってるっていうのに、日本は迫力どころか、どうしてあんなにおどおどしているように見えるのかね?

* * *

まだ胃腸の調子が悪い。朝、医者に行った。子供の浮き袋を買って帰った。午後も調子が悪いので、昼寝をする次男の横になった。いつの間にか熟睡していた。

耳元で何か囁く声がするので、目をあけた。三歳になったばかりの次男がベッドの横に立って、真剣な顔でなんか言っている。ああ、次男はもう起きていたのか と思う。長男とお母さんは学校に行っていて、家にいるのは二人だけだった。何か伝えたいのだろうが、起こしたら怒られるという恐れもあって、次男はひそひ そ声で語りかけていたらしい。

でも、何を言っているのか分からない。What did you say ?ときくと、やっと普通の声で、A man is waiting there... と言って玄関の方向に指をさしている。えっ?誰かいるのか?!一瞬、危機感が全身に走り、とび起きた。こういう時、あらゆる嫌な事件のニュースが頭に駆け 巡る。寝ぼけた頭を振り切りながら、玄関に行くと、ドアが少し開いていて、その向こうにネズミ色の作業服を着たおっさんが立っていた。次男もうしろに付い て来ている。一瞬カブールのPXで買った金属製警棒のことを思い出したが、もう遅い。

「あのぉ、ガスの点検に来たんですがぁ、ま、ま、また、今度にしましょうか?」と妙にうろたえながら、おっさんは言った。なんじゃ、それ。「今でいいです よ。やってください」と言ったが、「五月に今日の点検の案内は出しまして、それで・・・」とかなんとか別にしなくてもいい言い訳みたいなことを言ってる。 いかにも、なんじゃ、お前!という気配がこっちに漂っていたのかもしれない。

おっさんは家の中に入り作業を始め、僕は落ちついて、次男のことを考えてみた。呼び鈴がまずなって、次男は玄関に行ったのだろう。そして、ドアをあけた ら、お母さんでも長男でもなく、知らないおっさんが立っていた。そして、僕を呼びに来たのだ。作業中のおっさんに、この子が出てきたんですかと訊いてみ た。「そうなんですよ、なんかドアの内側でカサコソ音がしたんで犬でいるのかなとおもたら、この子が出てきましてね、へえ、へへへ」。

自分が家にいても、内側からカギをかけておかないといけないと思った。

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