Thursday, November 08, 2007

南海の孤島

家族全体に疲労が蓄積してる。遠い国へ引っ越してきて、まったく何も分からず、ホテル住まいを始めて、住む場所を探して、契約して、引越しして、家具やら生活道具を手に入れて、新しい学校に入学して、学校に必要なものを買い揃えて、銀行口座を開いて、テレビをつないで、インターネットを契約して、電気・ガスなどをつないで、切符の買い方の分からない電車やバスにのって、言葉が分からず品物の内容が分からないお店で買い物して、まったく知らない人たちと次々に知り合いになり、ぎこちない付き合いを始めて、迫り来る寒さに準備をして、毎日とりあえず何かを食べて、おしっこもうんこもして、寝て、シャワーを浴びて、なんとか生存していくというのは、ストレスのたまるものだ。それに加えて、まったく訳の分からない仕事で頭がおかしくなりそうになりながら、出張ばかりで、僕はもうそれだけで疲れきっていたが、今や家族全体の疲労のピークに来ている。

人事の会議をやっていたら、家から電話がかかってきた。明らかに声がおかしい。インフルエンザにかかったようだ。晩御飯を作る気力がないので、早く帰ってきて何か作って欲しいとのことだった。もう5時前だし、4時を過ぎると帰宅してしまう人も多いので、すぐに帰ろうかと思ったが、フィールドで待っている案件が山積みで動けない。ある国のプログラムで10月分のローカルスタッフの給料が払えず困っているケースが途方もなくもつれていて、なんとかそれだけを処理したかった。即効でキーボードを叩きまくって、一度も読み返さず本部と地域事務所のFinance に送って、やっとオフィスから出てきたら、5時半だった。記録的に早い帰宅だ。

急いで駅前のスーパーマーケットで買い物をしてぜいぜいいいながら家に帰ったら、上の階に住むクリスが家に来ていた。うちにあるヒーターの調子がおかしいので、それを直してくれていたのだ。イギリス人の彼は何かと助けに来てくれる。ここに入居して初めて知り合った日、夜の食事(その頃は外食ばかりだった)から戻ると、ドアのノブにビニール袋がかかっていて、ワインが二本。Welcome to my neighbor !と書いたカードとともに入っていた。それがクリスだった。それ以来、うちの息子二人におもちゃを買ってきてくれたり、DVDをダウンロードしてもってきてくれたりする。彼はイギリス人だが、ノルウェー人の彼女もたまにノルウェーからやってくる。彼女はこっちにくると、毎日うちに遊びに来て妻とお茶を飲みながら話をしているそうだ。

クリスにやーっと言って、ドアを閉めようとすると、隣のドアからマイケルが出てきた。彼は有名な弁護士さんらしく、そこを事務所にしている。僕の部屋も彼の所有らしく、マイケルはつまり僕にとっては大家でもある。彼とは細かいことでいろいろ行き違いもあって、一時険悪な仲になったが、いつまでもそんなことしてられない。今は普通につきあってる。しかし、まだ続いている契約の話を少ししていたら、下からMさんと二人の娘さんが上がってきた。Mさんはデンマーク人の男性と結婚した日本人で、クリスと同じように、うちの上の階に住んでいる。このビルの知り合いはこれで全部なのでその全員と一度に会ったことになる。珍しい瞬間だった。

Mさんの娘さんは土曜日の日本語補習学校に行っていて、うちの上の子も学年を一つ下げてそこに行くようになったので、Mさんが時々宿題を一緒にみてくれてほんとに助かってる。うちの上の子はインターナショナルスクールでは三年生だが、日本式の4月から始まるサイクルだとまだ二年生ということになる。そして、彼には二年生の日本語は難しいので、日本語補習校では一年生に入れてもらった。だから、英語で三年生と日本語で一年生を同時にやるという妙なことになってるが、僕はできるだけ彼の負担の少ないようになればいいと思っている。

家族はみんな一日10時間は寝ないとつらいようだ。僕は平均すると一日5時間くらいなので、生活のパターンがかなり違う。この5時間の時差の間に僕は自分のしたいことをおさめるべきだと思っているが、それがオーバーフローすることもある。簡単に言えば、家族が起きている間は僕は一切自分のことに手をつけず、家族が必要なことに専念するべきだと思うのだが、なかなかそれができない。家族といっしょに生活することに慣れていないので、まだパターンが出来上がっていないのだ。出張で僕の生活が細切れにされるのも不利に働いている。

今の仕事上のストレスのたまり方もちょっと異様なものがある。不健全というか、本部の性格上しかたないのかもしれないが、他の人たちのストレスのたまり方を見ていても、フィールドのストレスとかなり種類が違うのが分かる。にっちもさっちもいかないという言葉がぴったしなのだが、それがもしにっちもさっちも行ったら、どうなんだってことが誰にも具体的な像としてあるわけでない。それがフィールドとの大きな違いだ。こうあるべきものとか、達成すべきものみたいなものがフィールドでは比較的同僚たちの間で共有されやすい。それに向かって、にっちもさっちもいかない状況があれば、クリアしていくことには自然と motivation も上がってくる。

本部にmotivation のある雰囲気は全然ない。もちろん、数人のトップレベルの人はいつもそれを鼓舞するような話をするが、聞いているスタッフはまるで選挙演説を聞いているような顔でボーっとそれを見ている。どうもおかしい。

人生はもう終りかけてる。あと一種類くらい全然別の仕事もやってから、終りたいと最近つくづく思う。南海の孤島のリゾートホテルのマネージャーとか、そういう仕事どこかにないもんだろうか。

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