Tuesday, November 06, 2007

未来への言葉:Do whatever you want あるいは、勝手にしたら

カブールではずっと絶え間なく微熱が続くような忙しさだったけど、ここにいるとラジエターの壊れた車になったような気分だ。今から思えばの話だけど、フィールドは詩的だと思う。よく考えれば、ずっと一点を見つめる生活ではないか。

ここはとても無機質だ。常に頭の中が四方八方に散乱して、すぐに過熱状態になって何度も部屋を出て頭を冷やしにいく。といっても、同僚と論争するわけでもなんでない。自分のPCと二人きりの会話なのだ。フィールドで時々経験するような怒りがわくわけでもない。ただ単純にタコメーターがレッドゾーンに入ったまま運転し続けてるようなものだ。あまりこの状態を続けていると吐き気に襲われるので面倒くさいが適当に間をあけなければいけない。それがまた時間の浪費だという思いが離れず、また熱くなる。

このオフィスは若い人が多い。まだ開店して一年ほどなので、近所のヨーロッパの若い人がいっぱい応募して入ってきたのだ。周りにいるのは僕より15~20 歳くらい若いスタッフばかりだ。オランダ人のWはまだ大学院生のインターンだが、とてもしっかりしていて礼儀正しく頭のよさが端々ににじみ出ている。

スウェーデン人 F はとても温厚でまじめな男だ。F は、フラストレーションの爆発を抑えて黙々と仕事をしている。時々、彼は正論をボスにぶつけている。彼は自分でお弁当を作って持ってくる。オフィスビル内のカフェテリアがあまり好きになれない僕は一人でヨットハーバーの(というかオフィスビル全体がヨットハーバー内にあるのだけど)、サンドウィッチ屋に行くことが多いのだけど、彼は自分のお弁当を持ってついてくる。外で海を見ながら食べるのがいいらしい。

J もスウェーデン人だが、才気煥発という言葉がぴったしの、未来とか夢とか希望とかそんな言葉をはにかまずに普通に言えるような、かつスカンジナビアのイメージを絵に描いたような金髪の可愛い女の子だ。たまに僕がが国連の深い闇を口からもらしても、彼女はきっぱりと「私はまだ希望を捨てない」なんて言葉を発するのでたじろいでしまう。

J はよくコーヒーを飲みに行こうと誘いにくるのだが、最初は忙しいのでと断っていた。断ると机まで持ってきてくれると言う。それもなんか悪いので断ると、だんだん感じが悪くなってしまう。最近はJ が誘いに来る時間がいつもかなり正確に朝10時だということにも気がつき、10時を頭の冷却時間にすることにして、自分も快くいっしょにコーヒーを飲みに行くことにした。

コーヒーを飲みに行くといっても、やはりオフィスビルの一番上にあるカフェテリアなのだ。すぐ近くには店らしいものがサンドウィッチ屋以外にないのでしかたない。どういう仕組みか分からないが、挽きたての豆で作るコーヒー(カフェラテ・カプチーノ・エスプレッソもある)はいつでも無料だ。

オフィスフロアにはイノベーション・カフェとかいう変な名前のガラス張りの部屋があって、そこでもコーヒーが無料だ。そこで呆然とテレビを見ている人や、子どもを連れてきて遊ばしている人もいる。家具類はすべていわゆるデザイナーブランドで、かつ遊びの空間をふんだんに取り入れたフロアープランになっている。ホッケーゲームに熱中している人や、チェスをしている人もいる。グーグルのオフィスもかなりすごいらしいが、これが最近のオフィスのトレンドなのかもしれない。その哲学について書かれたものを着任した時にもらって読んだけど、それなりに一貫したものはあった。ただ最大の欠点は音だろう。空間デザイナーが音デザイナーを雇わなかったばかりに、声があちこちに反響して、仕事に集中するのはかなり難しく、僕はi-Pod を聞きながら頭から湯気を噴いている。

しかし、この組織は国連の中では珍しく自分で利潤を出して運営することになっているので(ドナー国から直接拠出金をもらうことができない)、それなりに言い訳ができるのかもしれない。今はどうか知らないが、たぶん20年くらい前、世銀の職員がどこへ行くのもファーストクラスで行くことを非難された時、世銀は自分たちで利潤をあげている(金を貸して利子を取ること)のだがら、文句を言われる筋合いはないというような返答をした、という記事を読んだことを覚えている。それが妥当な返答なのかどうか、知ったこっちゃないが、少し似ているかもしれない。といっても、僕のような下っ端に適用される国連のルールは、9 時間未満のフライトはエコノミー、9時間以上のフライトはビジネスと決まってる。ファーストクラスとかそういうのは知らないけど、例えば、国連事務総長などは当然ファーストクラスなんだろう。

W も F も J も未来についてよく話す。30歳前後なのだから当然かもしれない。誰も今やっていることを永久の職などとは考えていない。これをいかに利用するか、これをいかに不利に作用しないようにするか、緻密な計算をしようとする。どうせ、そんなことしても無駄だよ、なんて言える雰囲気ではない。彼らは僕を引退した老人か何かのイメージでとらえているのだろう。フィールドの生活から、応募書類の書き方までいろんなことを訊かれる。彼らのような上質な部類には本来何の助けもいらないはずだが、下等支配制がまだまだはびこるこの業界では、苦労もするだろう。しかし、残念ながらそういうことに関しては僕には何の力もない。

こういう未来の潜在力に対して僕にできることはなんなのだろうかと考え込んでしまう。僕が今から国連トンデモ話をたくさんしておけば、彼らが将来発狂しそうなくらいバカ気た事態に出くわした時のショックを若干和らげることはできるかもしれない。しかし、どうもそれは建設的でない。

彼らが未来の夢と希望を持続させ、それを実現してしまえばいいだけの話だ。そして、彼らの前にはまったく想像力を超えた困難でかつアホらしい壁の連続があることは彼らも感じているようだ。したいようにすればいいさ、それで困難に当たれば、解決する、そしてまたしたいようにすればいい。Do whatever you want. それくらいのことしか言うことはない。グレードがどうのこうの、採用プロセスがどうのこうの、ごまかし、ウソ、陰口、足のひっぱりやい、出世のためには手段を選ばない人々、全部そのとおりだけど、それをいっさい無視しても、まだ道はあるだろう。やりたいことをやればいい。勝手にすれば。

結局、それ以外に僕には言葉がない。

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