Friday, April 15, 2005

正しい日本人

結局、帰国してから今まで、大学に勤務していた時の学生以外は、友人には誰にも会わなかったが、今日は子どもが寝てから、中学・高校時代の友人Aに南千里で会うことになった。
そこに高校時代の同級生がやっている居酒屋があるらしく、僕は行ったことがなかったが、同窓生達は結構よく行くようだ。

南千里駅までタクシーで行き、Aと合流して、店に向かった。Aはいつもスーツを着ている。コンピュータを売り続けて、もう四半世紀だ。その間ずっとスーツを着ていたのだろう。普段着というものはないのかと一度きいたことがあるが、パジャマは持っている、という変な返答をしていた。

店に入ると、我々の同級生である女子(じょし)がいた。高校時代の友人には、なぜか女性という言葉を使うといやらしく聞こえてしまいそうで、女子という言葉を使わざるを得ないような気がする。微かに見覚えがあるが、たぶんもともと高校時代も話したことないだろうから、覚えてるのか忘れているのかも分からない。お上さんの貫禄のある女子だった。

僕は高校時代、友人がとても少なかった、と言えば、すごくおとなしく内向的で目立たず日陰でひっそりと高校生活を送っていたと主張しているように聞こえるかもしれないが、そんなことは全然なくて、ただ誰とでも友達だったような気がするが、誰ともそれほど密着する間もなく高校時代が終わってしまい、卒業後30年近く経って気がついたら冷酷無残なことに名前がとんと思い出せないという意味では、友人がとても少なかったというのが適切だと思う。

僕はふだんはまったくアルコールを飲まなくなってしまったのだが、飲む人間とお店に行けば特に拒絶するわけもなく飲む。ただ何を飲むか考えるのが異様に面倒くさくなった。どっちみち酔う道具ではないか、と言えばみもふたもないが、若い頃のバカ飲みはまさに酔うため、酔って現れる(かもしれない)非日常を期待していただけで、酒を味わっていたとはとても言えない。今日はAがビールを頼んだので僕もビールを頼んだ。二杯目はAが樽酒を頼んだので僕も樽酒を頼んだ。三杯目はAが一番安い焼酎を一本頼んだので、僕もそれを飲んだ。

しばらくすると、近所に住む別の同級生Bがやってきた。彼は足の側面にストライプの入ったジャージを来て、サンダル履きでやってきた。近所のおっさんの雰囲気をよく醸し出していた。Bは高校生の頃、いつもほっぺが赤かったが今も赤い。別の理由で赤いのかもしれないが。

Bは以前、銀行に勤めていたらしいが、ある日突然やめて一人旅に出た、というようなことをちらっと一度聞いたことがある。それ以上詳しく聞いてはいけないような気がしたので、何も分からないが、その後、証券会社に入って今はそこの研究所みたいなところの長らしい。時々テレビに出て解説なんかしているらしいが僕は見たことない。株に興味がないのでまず永久に見ることはないだろう。

AやBは高校時代に吹き込まれた、いや教えられた日本の正しい社会の構成員なのだろうと思う。僕はものの見事にそこからドロップアウトしてしまった。日本にいると、しばしば目が点になって絶句するしかない瞬間に遭遇するのだが、AやBと話をしていても、そんなことはなく、彼らが怪物のように見えるわけでもないし、言葉が通じないわけでもない。同級生相手だから、彼らは擬装しているのだろうか。いや、そんな器用な奴らではない。

とすれば、逆にそんな人間が日本の正しい社会で正しく生きるのは苦しくないだろうか、と思うが、苦しいからといって、それがどうした!ということなのかもしれない。

ライブドアの堀江さんはどうしていじめられるんだろう、と僕が言うと、Aはお前がそんな話題を出すとはね、アハハと笑い、Bはまじめに背景を解説してくれた。堀江さん一派が悪玉、フジテレビ一派が善玉という構図は馬鹿げているという疑いはどうやら正しいらしかった。

焼酎がなくなり、Bが明日はゴルフだというので、12時頃店を出た。飲みすぎたかもしれない。明日は7時半にタクシーを予約した。まだパッキングもしていない。大丈夫かな。

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