Friday, April 15, 2005

ハリウッド的なドストエフスキー

半島を出よ 』を一気に読み終わった。
とんと忘れていたが、フィクションを読んでいる瞬間の幸福を味わっていた。
僕の基準では、村上龍の最高傑作だと思う。

膨大な情報収集に基づいた、しっかり計算された構成などを見ていると、村上龍は、欧米のブロックバスター系作家に拮抗する作品を生産できる現存する日本の唯一の作家だと思う。最高のエンターテイナーでしょ。

最近の文壇(?)と言えば、やたらと賞をばらまき、若い才能(?)の登場をはやし立て、なんとか売り上げを上げたい出版業界につくしているようにみえるけど(そんなことはどの業界でも同じなのかもしれないが)、肝心のそういう作品がどうも今や大昔の私小説の焼き直しにしか見えない。彼らはみんなマスターベイターでしょ。

今や、村上龍は日本最後のエンターテイナーになってしまったのかもしれない。

半島を出よ 』ではロゴスがパトスを殺していない、と言えば陳腐だけど、村上龍が欧米ブロックバスター生産業者の上を行っているのは、作品のディテールに現れる彼の人間の理解だ。デビュー作のブルーからトパーズを経て延々と彼がやってきた仕事はここに現れる。ブロックバスター生産者はそんなこと無視する。そういう描写を私小説化せずに表現すれば、ドストエフスキーになるのではないだろうか。あるいは世界化した私小説。

村上龍はハリウッド的なドストエフスキーなんだろう。とても稀有な作家だと思う。

とは言え、ごちゃごちゃ言わず、『半島を出よ 』はまず読んで楽しむ作品だと思う。

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