Saturday, April 30, 2005

去る人たち

明日の晩に、ゴハのお別れ会をする。5月5日に彼女はこのプログラムを去って、アルメニアに帰る。なぜなんだ?!と詰問はしなかったけど、いろいろな話を総合すると、娘の教育を優先した結果だということだろう。

ゴハの部屋には十代後半の娘さんの大きな写真が置いてある。ゴハも美形だから、信じられないことはないが、でも信じられないくらい美人だ。何を勉強したがってるの?と訊くと、即座に「彼女は女優になりたがっている」という返答が返ってきた。ああ、としか言いようがなかった。そりゃそうだろうな、この美貌じゃ、他に何も思いつかないだろう。

アメリカに連れて行くの?と訊くと、ゴハはちょっとはにかんで、「そう」と言っていた。ショービジネスならアメリカしかないだろう。NYだろうか、LAだろうか、まあ、そんなことはどうでもいいので、訊かなかった。ゴハは娘を連れてアメリカに行き、ちゃんとした学校に娘が通い始めるのを見届けて、母国に戻ってくるそうだ。

「全部で3ヶ月くらいかかるだろう」
「そう、だから、この3ヶ月が必要なの」

というわけで、彼女は仕事を辞める。
一人娘がいなくなると、彼女は母国に帰っても一人になる。夫はモスクワで仕事をしているからだ。一人でアルメニアで生活するの?と訊いたら、またゴハはちょっとはにかんで、「夫と暮らしたい、もう一人は嫌」と答えた。でも、どうするんだろう、と思ったが、大阪のおばはんみたいな質問を続けるのはやめた。

でも、彼女は自分の計画を勝手に話し始めた。娘の行き先が確定して見届けたら、自分はまたカブールに戻って来たい、その時は夫には仕事を辞めてもらっていっしょに来てもらう、そうすれば、私が働いてカブールで二人で生活することができる、そのうち夫だってカブールで仕事が見つかるかもしれない、等々。

たくましいなあ、母だなあ、妻だなあ、すごいなあ、とボーっと間抜けな顔して、ゴハに見とれていたら、空席があったらまた応募したいんだけど、いい?と言った。
えっ?えっ?何っ?もう一辺言って?
だから、またこのオフィスに来てもいいかって?
あああああ、もちろん、もちろん、もちろん、いいに決まってる。

ゴハは仕事がよくできた。献身的だった。いい人はどんどん去っていく。
ほんとに戻ってこれたらいいんだけど。

レイコも5月5日にカブールを出る。彼女はそのままNYに行って、ハンドオーバーをして、ちょっとギリシャで休暇をとって、カブールに戻ってくるそうだが、やはり辞めてしまう。6月にスーダンの新しい仕事を始めるからだ。今、スーダンにはどんどん人が吸い寄せられている。新しいポストが次々に公募されている。彼女はそこで今より高い地位のポストを得た。

レイコの穴埋めはきつい。彼女はあまりに出来すぎた。ハンドオーバーの量もはんぱじゃない。ものすごい量の仕事を一人でこなしていた。結局、彼女の穴埋めのために6人雇うことになった。1人分の穴埋めに6人採用しなければならない、という事態が彼女がどれだけとんでもない仕事をしていたかよく現している。しかし、それでも同じ質と量の仕事が維持できるかどうかは分からない。仕事というのは、人数が増えれば、単純に質が向上したり量が増加したりするもんじゃないからだ。

レイコは自分でも言っているが、集団行動が苦手だ。群れたり、つるんだりできない。連れションなんてコンセプトが理解できないだろう。日本の学校なんかとてもまっとうに行けないだろう。一人でも気ままになんでもやるのが好きなのだ。でも、責任感が日本的に強いので、なんでもちゃんと最後までやってしまう。(カレシとかいるんだろうかとふと思ったこともあるが、もちろんそんなことは訊いたことない。シゴト、シゴト)

仕事さえ動いている限り、誰がどんな格好をしていようが、どんな態度であろうが、どんな時間に仕事しようが、僕はなんとも思わないが、レイコは日本の社会には適応できないだろうし、嫌われるかもしれないし、いじめられるかもしれない。でも、本人はそんなものに適応する気なんて毛頭ないだろう。僕もそんなものはゴキブリの餌にでもしたらいいと思う。彼女の新しい上司がゴキブリとかゲンゴロウとか糞コロガシでないことを祈るばかりだ。

レイコは仕事がよくできた。献身的だった。いい人はどんどん去っていく。
ほんとに戻ってこないんだな。

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それにしても、日本でやっていたあの国際協力人材育成論議は何だったんだろう?
思いっきりピント外れてたぞ。
もういいか。関係ないし。

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