Saturday, January 07, 2006

移動

カブールに戻るという実感が全然わかない。
まったく寝ていないので頭がボーっとしたまま伊丹空港に向かった。タクシーに乗ってすぐに洗面道具など一式を入れたバッグを忘れたことに気がついた。たい したものが入っているわけでもないので、取りに戻らないことにした。今日のうちに伊丹から成田、成田からバンコク、バンコクからイスラマバードへ向かう。 考えると面倒くさい。

成田で家に忘れてきた電気髭剃りを買う。その時に爪切りや歯ブラシも買えばよかった。あとでバンコクの空港で探したのだが、そんなものはなかった。カブールで探すのかと思うとうんざりする。なんせ今や街の中の一般の商店には行けないのだ。

成田を発って『魔王』伊坂幸太郎を読み始めた。人気のある作家らしいが僕は全然知らなかった。伊坂ワールドという言葉も見たので、作風が確立しているのだろう。

「今、この国の国民はどういう人生を送っているか、知っているのか?テレビとパソコンの前に座り、そこに流れてくる情報や娯楽を次々と眺めているだけだ。 死ぬまでの間、そうやってただ、漫然と生きている。食事も入浴も、仕事も恋愛も、すべて、こなすだけだ。・・・」なんて登場人物に言わせているところを読 むと、『愛と幻想のファシズム』なんかをちょっと思い出すが、村上龍の膨大な調査量に比べるとあまりに軽い。

「インターネットによる伝達は凄まじい。人の揚げ足を取り、弱みに付け込み、誰かが困惑で死にそうになるのを喜ぶ者たちが、インターネットを操っている」なんてくだりを読むと、確かにそうだ、よく見ているなと思うが。

しかし、そもそもこの本の主題にとって、超能力のようなものを登場させる意味が僕は分からなかった。あるいは、超能力が登場するという伊坂ワールドが先に あって、この作品の主題はちょっと目先を変えてみたという程度のことなのか?うまいエンタメ作家ということなのだろうか。

読み終わった頃にイスラマバードについた。宿に着いた頃にはもう12時をまわっていた。明日はまた朝6時半に出なければいけない。実に眠い。いよいよ困っ たことになってきた。明日が『フォーサイト』1月号の原稿締め切り日なのだ。まだ一字も書いていない。しかも構想ゼロ。決まっているのはテーマだけ。日本 を発つ前の日に書いて送ればいいと思い挫折。飛行機の中で書こうと思い挫折。イスラマバードで書こうと思い、それも挫折しようとしている。こんなにネムい 頭で書けるわけない、明日カブールに着いて速攻で書いて、その日のうちに送れば、まだ締切日中じゃないかと自分をだまくらかし、やっぱり寝ることにした。 僕の人生は実に挫折に満ちている。

No comments: