Wednesday, January 25, 2006

くつ

日本から防寒ブーツを持ってくるのを忘れた。足の先が寒くてしょうがない。オフィスでも普通の靴を履いている人がだんだん少なくなってきた。同じゲストハ ウスに住んでいるクリストファーも足が冷たくてたまらないと言っている。PXに行けば、頑丈そうなブーツが売っているのだけど、PXはなんでも高いので ブーツを買おうなんて考えたことなかった。

しかし、もう限界であった。なんでもいいから暖かい靴を手に入れないと足の指が凍傷になってなくなったら困る。クリストファーも決意した。その日、彼は先にUNHCRの車でブータン人のソナムといっしょにPXに行った。僕は1時間ほど後に行った。
↑限界に果敢に挑むも、厳寒に打ち破れて図らずも「指殺し」の異名を授かった靴。

PXにクリストファーはいなかった。もう買い物を済ませたのか。何種類かあったが、値段は115ドルから140ドルの間くらいだった。高いような気もする が安いのかもしれないとも思う。登山靴のようなものは買ったことがないので見当がつかない。どれでもいいから一つ買うことにして自分のサイズの箱を探し始 めた。

が、なかった。自分のサイズがない。危機。確かに靴専門ではないし、日本で言えばコンビニにたまたま、なぜか靴もおいてますという程度なので、サイズがなくても全然不思議ではないのだ。しかし、落胆した。僕の足の指は今冬限りの命なのか。

店を出て、ドライバーに「サイズがなかった」というと、カブールに靴屋はいっぱいある、いいのがいっぱいある、とあからさまに励まそうとする。そんなに落 胆した顔しているのかなとちょっと恥ずかしくなる。靴屋がいっぱいあることくらい知ってる。でも、彼らが「いいの」って言っても、なんかちょっと違うんで すけど、という恐れが大きいのも知ってる。でも、もう選択肢はないのだ。

そうだなあ、カブールの街にはいいのがいっぱいあるよなあ、PXなんて占領地みたいなところで買い物するのはいけないよなぁ、街に行ってみるか、いっぱいあるに決まってる、みたいな話をしながら、街の中へと戻っていった。

すぐに見つかった一軒目の靴屋にとりあえず入ることにした。ショーウィンドウにはびっちりと靴が並んでいる。昭和初期の映画の小道具で必要だから取って置きました、みたいなのがいっぱいある。不安がよぎるが、見ても損はしないと思って、店の中に入った。

「元気ですか?」といきなりウルドゥー語で店のオヤジが声をかけてきた。なんでウルドゥー語なのか分からないが、元気、元気とウルドゥー語で答えることに した。暖かい靴ある?と一言英語で訊いたのだけど、いっしょに入ってきたドライバーがその一言の30倍くらいの単語を使って何か説明している。

少し気に入ったデザインのがあったので、これを履いてみたいのだけど、というと、オヤジはダメっ!と断言する。

えぇっ?靴屋でしょ?なんでえ?わけわからんよ。ドライバーの方を見ると、どうも靴屋のオヤジはそれは暖かくないと言っているらしいのだ。暖かい靴が必要 だと最初にドライバーに懇々と諭されたのだろう。彼はとても忠実に暖かい靴を売らなければいけないと思いこんでしまったのだ。融通利かないからなあ。ここ で押し問答してもしょうがないと思い、じゃあ、どんなのを勧めるのかと訊いてみた。

すると、「これっ!」と自分が座っているイスの横にあるテーブルを指差す。そこに五足の暖かそうな靴がのっているではないか。当店のお勧めみたいなもの か。韓国製とトルコ製のがあった。三足履いてみたが、どれも履き心地がいい。な~んだ。PXなんて行かなくていいんじゃないか。僕は韓国製のを一足選び、 値段を訊いた。

1800アフガニ。えっ?1800アフガ二。えっ?1800アフガニ。えっ?1800アフガニ。えっ?1800アフガニ。えっ?1800アフガニ。えっ? 1800アフガニ。えっ?1800アフガニ。えっ?1800アフガニ。えっ?1800アフガニ。えっ?1800アフガニ。えっ?1800アフガニ。えっ? 1800アフガニ。えっ?

というやりとりを靴屋のオヤジと僕はしばらく繰り返した。別に値切ろうと思ったわけではない。彼が何を言っているか分からなかったのだ。1800って、そ れ何の数字?サイズ?あなたの歳?子供の数?何、何?ってな感じで。長いこと現地通貨で買い物していなかったので、ピンと来なかっただけなんですが。

で、えーっとドルでいくらかなと言うと、ドライバーが横からすかさず36ドル!なんでそんな計算速いの?ひょっとしてこの買い物すべてやらせ?しかし、安い。僕は思わず間違えて26ドル渡していた。

ゲストハウスに帰ると、クリストファーが115ドルの靴を履いていた。僕のは、えーっと120ドルだったかなと言ったら完璧に信じていた。そんなにまじな顔されると困るので、実は36ドルだったというと、とても哀しそうな顔になった。どっちが良かったのか分からない。
↑「カブールでもいいのがある」代表としてアフガン人に推挙された靴。日本で売り出す場合の商品名は「イーノ」に決定。

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